籾山由美の東京-島根 小さな暮らしこんな時だからこそ、できることから。私は花を。

(2011.03.28)

大震災のニュースを聞きながら何もできない自分に腹が立ちます。こんなに大変なときに私のちゃらちゃらしたコラムってどうなの? と自問自答しました。でも原稿に向かいます。それは芦屋にお嫁に行った友達が1995年の阪神・淡路大震災に被災した時のことを思い出したから。

一時行方不明になり、ものすごく心配しました。連絡がやっとできた時、何かできることはない? 何かして欲しいことは? と問うと、「綺麗なものが見たい!楽しい音楽が聞きたい!」と言います。そこで、松田聖子、マドンナ、郷ひろみ、ちいさな子供もいたのでちびまる子のオープニング曲など楽しい気持ちになる明るい詩曲をざくざく選んでカセットテープを編集。

綺麗と言うアイテムには花の写真集と私が撮影した花の写真を送りました。今よりかなりへたくそでしたが。笑)それでもとても喜んでくれて「フツーの暮らしに戻れる気がする。」と言ってくれました。私に今できること、それは綺麗な花の写真を選んでアップすることのみ。この写真を見て心が和む瞬間があったとしたら私にでもできることがあったと感じることができます。

写真の花は、私が主宰する花組庭園の花教室で生徒さんが稽古に使う生花です。毎回、生徒さんの力量に合わせて私が考えに考えた花組です。ステキだなと思っていただけると嬉しいです。

菊づくし。大きい菊、小さなぽんぽん菊、菊だけの花組みで。

海外では人気が高く喜ばれる菊。日本では江戸時代に庶民も新しい形の菊花を育てるのが流行りだったようで、「菊合わせ」も頻繁に催されたようです。「菊合わせ」とは菊の自慢大会のこと、つまり品評会ですね。

新種の菊は投機の対象にもなり一攫千金を狙って菊の育成に熱中したようです。花径が18㎝以上を大輪ギク(タイリンギク)といい、中輪ギク(チュウリンギク)、小輪ギク(ショウリンギク)と区別します。他に、ひとつの枝が数本の小枝に分かれて花をつけるスプレー咲きがあります。

写真手前の菊は大輪ギクの洋菊。写真奥の緑に咲く菊は日本で作られた品種です。白くて花びらの細い菊は嵯峨菊の種類、小さな丸い菊はポンポン菊と呼ばれています。色もサイズも増えました。こぼれ話をひとつ、オーストラリアでは母の日に大ギクの白い菊を使います。驚き!
菊以外に葉ものと松の枝が入っています。この花組は床の大皿に剣山を入れて活け込む稽古です。葉ものとは、花実をつけていない状態の葉だけの植物を指します。

大振りカーネーションが主役。花器三つに投げ入れします。

中央のピンクのカーネーションは、母の日のカーネーションを標準とすると花径が半径2㎝ほど大きなサイズです。最近はたっぷりとした花実で深い色みのカーネーションを店頭で見うけます。でも今回は敢えてピンクのカーネーションの組み合わせにしました。見慣れた花ほどお洒落に活けるのが大変。母の日以外にカーネーションを買うこともなく、頂いても珍重されるわけでもないカーネーションは手強い花です。これで稽古をするのは生徒のWさん。形の違う花器を三つ使って花を活けます。

写真向かって左下から星粒のように見えるミモザ、その左の黄色のブルビネラ、ショコラ色のようなチョコレートコスモス、ピンクのカーネーション、八重咲きのラナンキュラス、ラナンキュラスとチョコレートコスモスの間にある葉だけのナデシコ、緑の葉もの。

八重咲きのクリスマスローズにチューリップ。豪華な春を。

キンポウゲ科で八重咲きのクリスマスローズ、なんとも豪華です。鉢植えでは八重も出るようになりましたが切り花ではまだまだ珍しい種類です。一重咲きが多く花を下に向けて咲きます。うなずいているように見えて愛らしい花のひとつ。クリスマスの時期から花の少ない間咲き続ける花で、華やかな気分になるところから付いた名前のようです。オレンジ色の花はチューリップ。店頭に並ぶのが年々早くなり旬がわからなくなりつつあるチューリップですが、見かけると春なのだな〜と感じます。小ぶりで花びらの咲きが尖り、2色で咲くチューリップは最先端の形です。

向かって左上からオレンジのチューリップ、八重咲きのクリスマスローズ、花実のついたユーカリ、白線のはいったニューサイラン、写真には写っていませんが黄色のラケナリアも入っています。

生徒K子さんの作品を撮影。向かって右端に小さくラケナリア。

クリスマスローズがスタイリッシュですね。深い色合いがぐっと心に響きます。ブーケのときには写っていなかった黄色のラケナリアもこの写真には少しだけ参加。ラケナリアも色に幅がある花です。丈が短いのが欠点で、アレンジや活け花にはなかなか合わせられないので残念です。

華奢なアマリリスが贅沢。大きなフラワーベースに投げ入れです。

去年あたりから店頭に出回り始めたほっそりタイプのアマリリスが新鮮です。茎が通常の3分の1くらい。花に詳しい人は必ずホ〜っと歓声を上げます。長く花に関わっていると新しいものを目にすると他の人に自慢したくなります。向かって左、桃色のユキヤナギも珍しい。15年も花教室を運営していますが初めて切り花として出会いました。眺めているだけでウキウキしてきますね。

向かって左上から紅のアマリリス、テッポウユリにも見える白のアマリリス、小花の群れが見事なユキヤナギ、青紫のスイトピー、バラにも見えるラナンキュラス、ピーチオレンジのチューリップ、葉物のハラン。

生徒Mさん作品を撮影。手前チューリップとアマリリスのコラボ。

この花は投げ入れです。投げ入れとは、花器に水を入れただけで花を挿し入れて行く活け方のひとつです。剣山などの花を支える道具を使いません。活けるその後ろ姿が投げて入れているように見えたのでしょう、そんなことからついた言い方だと思います。苦闘のMさん、器との相性が悪いらしく自分の思う形に挿し入れられないようで何度も直していました。教室ではお直し無しをパーフェクト賞と呼び、拍手で迎えられます。が、しかし私のお直しは無慈悲。ざっくり全てを抜いてしまうこともありますし、これはあまりにも平凡と言われて直されたり、生徒さんは散々です。その叱咤にも負けない生徒さんに乾杯。

お稽古に使う花器の一部。個性の強い器ばかりの花教室です。

私は、水もたまらない壊れた雑貨も腕試しに良いと思うと稽古に使います。なんでも花器にしてしまいます。写真では立ち上がる花器ばかりですが、床置きの大皿のような器も稽古に出てきます。花を挿す口もひとつとは限りません。三つ以上のこともあります。稽古では二つの花器を使うのは当たり前。私は大好きですが生徒さんに言わせると奇妙キテレツな器ばかりだそうです。生徒さんも最初こそ嫌がりますが、すぐに慣れてしまうようですね。慣れてしまえばコンサバなデザインの花器なんてなんともありません、怖い物無し!との発言は生徒Tさん。タフです。笑)

※注 花器と器の2種類を使っていますが、花瓶でない物を器、最初から花のための器を花器としています。