小顔と歯科矯正の不思議な関係。

(2010.01.08)

街を歩いていると、最近の若い女性は「ホントにきれいだなぁ」とつくづく思う。その理由は小顔だ。正確にいうと、頭の体積自体はそう変わらないかもしれないが、どういうわけか、顔が小さく見えるのだ。その背景には「歯科矯正」の普及があった。


 

おかべ みどり
20年以上のキャリアを持つ矯正歯科の専門医。自身も中学生時に歯科矯正の経験を持つ。治療が終わり、まっすぐに並んだ白い歯を目にした時の感動は、いまもしっかり残っているそうだ。

モノの本によると、現代のように医療処置としての歯科矯正が登場したのは18世紀末。その歴史は思いのほか古い(まぁ、基本的な考え方は中国の纏足と同じなのだから、もっと以前からあっても不思議ではないわなぁ。事実、ギリシャ遺跡から歯並びの矯正に用いたと思われる器具が出土しているそうだ)。

怪しい記憶を辿ると、あれは確かぼくが小学3年生の時だった(昭和40年代)。石井佳子というクラスで一番人気の女の子が、ある日歯にワイヤーをはめて学校に来た。「いったいなんだ、あれは……」。ぼくだけではなく、みなそう思っていた(はず)。でも、誰一人として、佳子ちゃんに「それなに?」と聞くヤツはいなかった。なんだか、見てはいけないもの、触れてはいけないもの、のような気がしていたのだ。

それが、あとから歯並びを矯正するためのワイヤーだと誰からとなく知らされて、さらに驚いたのがその費用。○十万、いや○百万だと、一時は友だちの間で話題になっていた。まぁ、50円のもんじゃ焼きを食べるのに一大決心をしなければならなかったぼくらにとって、○十万だろうが○百万円であろうとそんな大金は見たことがないから、いずれにしても実感はなく大差ない。ともかく、昭和の中頃は、まだ歯科矯正は珍しく、そしてひじょうに高価な治療であったのだ。
 

(上/矯正前、下/矯正後)
上が出っ歯の矯正をする前と後の写真。その顔の輪郭はこれほど違う。歯科矯正は歯並びを直すだけではなく、端正な顔のラインを作り出すことがおわかりいただけるだろう。

しかし、そんな歯科矯正も時代ととも技術も大きく進歩し普及した。そして「子どものうちに歯並びを直すのは当たり前」のことになってきている。それこそ、平成小顔少女量産への要因であったのだ(と思う)。
 

子どもの歯科矯正は
歯列を整えるのではなく、
顎の線をきれいにすること。

 

「そうですね、一般的に『矯正』というとどうしても歯列だけに目が行きがちですが、子どもの場合はまだまだ成長期ですので、基本的には歯自体ではなく、きれいに歯が並ぶようにそのステージである顎を整えるのです」。
そう話すのは「みどり矯正歯科」(東京都港区)の院長、岡部緑さん。岡部さんは、日本矯正歯科学会の認定医でもある矯正歯科のエキスパートだ。

「生まれながらにして顎が大きかったり小さかったり、また生まれてから――、例えば指しゃぶりなどの癖のせいで、出っ歯になったりと、いろいろなタイプの顎がありますが、歯の数は乳歯で20本、永久歯で28本(「大臼歯=親知らず」を入れると32本)。ですから、顎の大きさや形状に関係なく同じ数の歯がそこに並ぶため、大きすぎると隙間ができ、逆に小さいと歯が入り乱れガチャガチャ詰まった歯並びになってしまうのです。身長がぐんと伸びる小学校高学年にかけて、下顎が前に突出してきて受け口になったり、また左右に曲がってきたりする方もいらっしゃいます」。

つまり、幼児時に歯科矯正を受けると、顎のラインがすっきりとし、顔の輪郭が綺麗に整うというわけだ。

成人してから歯並びを矯正することは可能だが、その場合は顎のアンバランスを歯で補正しなければならず、詰まった歯を抜いたり、なんだと“外科的処置”が必要になってくる。それに対し子どもの場合はまだ、骨も粘度細工のように、いかようにも動く。
「『矯正』というよりは、よりきれいな形に顎の成長を導く、といったイメージを持っていただければいいのでは」(岡部さん)

その年齢の上限は10~11歳。ご令嬢が年頃になってからでは遅いようだ。

 

大きくわけて歯科矯正方法は3種類。

インビザライン・クリアアライナー
(マウスピースタイプ)

食事や歯磨きをする時など取り外せる、マウスピースタイプ。といっても1日20時間以上の装着が必で、この時間より少ないと歯の動きが遅くなってしまう。また、歯のズレが大きい場合には使えないなど、適応できる症例に制限がある。

裏側矯正

最近は、矯正装置を目立たせないように、歯の裏側に取り付けるケースも少なくないそうだ。ただ、発音がしにくい、料金が高いといったデメリットも。そこでみどり先生お勧めは、上側の矯正装置のみ裏側に付けるハーフリンガルという方法。下の歯の装置は下唇に隠れてしまうため、比較的目立たず、発音のしづらさや舌への不快感がほとんどないとのこと。

表側からの目立たない矯正

これまでの矯正装置というと、金属のいかにも「ガチガチに固めています」というイメージのものであったが、最新のものは歯の色に近い白い装置が主流で、ワイヤーも白いものがあり、かなり目立たなくなっている。最新型のものは歯が動く時のワイヤーと装置間の摩擦が抑えられるため、痛みが減り、治療期間も短縮できるという。

みどり矯正歯科

東京都港区芝 1-13-19
tel. 03-5442-1181
都営三田線/浅草線「三田駅」7分、JR田町駅8分(ともに徒歩)
診察 10:00~18:30(火、水、金曜)、9:00~16:00(土曜)/完全予約制
http://www.midori-ortho.com/index.shtml