道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 17ミライはともかく、 この1年のイヤーカー選び。

(2015.01.09)
トーキョーモビリティ17。トンネルを抜けると、そこはファッションだった。乃木坂トンネルの青山側出口。
トーキョーモビリティ17。トンネルを抜けると、そこはファッションだった。乃木坂トンネルの青山側出口。
 
トヨタの“MIRAI”発売。

前回より引き続いての“MIRAI”。世界初の市販型燃料電池車(FCV)、トヨタの“MIRAI”が12月15日に正式販売されたと知ってディーラーに注文が殺到。当面の国内年間販売目標約400台に対してその数、1000を優に超えた結果、このままではユーザーの手許に届くまでに1〜2年を要しそうな勢いなのだという。

そのせいか、それから数日後にはペイドパブの形を採ってトヨタの奇妙な広告が日経新聞に載った。曰く、トヨタは「次世代エコカー」としてHV(ハイブリッド・ヴィークル)やFCVをはじめ各種取り揃えているが、いま選ぶならプリウスPHV(プラグイン・ハイブリッド・ヴィークル)が注目株なのだと。PHVなら電気でもガソリンでも走ることができ、時代感覚に鋭いアナタも充分に満足できるはずだし、なんならすぐにでも納車できますよという、結構あからさまな誘導キャンペーンなのである。メーカーがそうせざるを得ないほど、「未来の乗り物」と思われていたFCVが予想外の早さで実用化されたインパクトは大きかったというべきだろう。

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C-O-T-YとF-O-T-Yと……

我がNPO法人RJCこと日本自動車研究者・ジャーナリスト会議の選定になるカーオブザイヤー(略してC-O-T-Y)は規定により毎年11月1日から翌年10月31日までに発表・発売された新型車がノミネートの対象だから、MIRAIは惜しくも次回送りとなる。

今回(2015年次)は会員57名が参加して11月11日に栃木県のツインリンクもてぎの特設コースで実車の最終確認テストとそれに続く投票を行なった結果、それぞれの分野で最多得点を集めた以下の2車と1技術とが受賞した。

RJCカーオブザイヤー:スズキ・ハスラー
RJCカーオブザイヤー・インポート:メルセデス・ベンツCクラス
RJCテクノロジーオブザイヤー:日産“ダイレクト・アダプティブ・ステアリング”(略してDAS/スカイライン350GT HYBRIDに搭載)

因みに、DASはいわゆるステアリング・バイワイアのこと。「バイワイア」は操作部と作動部が機械的に繋がっておらず、文字どおりシャフトに代わるワイアを通して電気的に伝えられるもので、ステアリングへの応用は世界初。当面はより素早く正確な操舵と路面からの不快な振動解消が目的だが、将来的にはステアリング自体が不要となる「自動運転」まで見越して開発された。RJCカーオブザイヤーの詳細に関してはRJCホームページを参照されたい。

小能く大を制したハスラー。カラーバリエーションも豊富。スズキの竜洋テストコース(静岡県磐田市)にて。
小能く大を制したハスラー。カラーバリエーションも豊富。スズキの竜洋テストコース(静岡県磐田市)にて。

選考過程からも判るとおりC-O-T-YはRJCとしての総意であり、ボクもその一員である以上、従うのは当然だ。ただしC-O-T-Yなるもの、えてして「いい子」が選ばれがちであり、また個には個としての意見がある。ドライビングプレジャーをなにより重視したいボクとしては若干違うスタンスを採ることもままあった。そこでこの場を借りて去年から勝手に展開させてもらっているのがF-O-T-Yことファンオブザイヤー。乗ってどれが愉しかったかという、きわめて私的で情緒的なアウォードである。図に乗るようだが、今年はさらにV-O-T-Yことヴァリューオブザイヤー、すなわち「お買い得車はどれか」にも手を拡げてみようと思う。

カーオブザイヤー・インポートのメルセデス“C”。新型MINIと1ポイント差の大接戦を演じた末に獲得した。Sクラス並みに最新のあらゆる安全デバイスを投入した“部分自動運転”と軽量設計がウリ。六本木の本社にて。
カーオブザイヤー・インポートのメルセデス“C”。新型MINIと1ポイント差の大接戦を演じた末に獲得した。Sクラス並みに最新のあらゆる安全デバイスを投入した“部分自動運転”と軽量設計がウリ。六本木の本社にて。
スカイラインは旧プリンス→日産と続く伝統のネーミングだが、新型はメルセデスやBMWとも対抗し得るプレミアムブランドを標榜する。グリルに敢えてインフィニティのバッヂを追加したのもそのため。試乗会場の明治記念館にて。
スカイラインは旧プリンス→日産と続く伝統のネーミングだが、新型はメルセデスやBMWとも対抗し得るプレミアムブランドを標榜する。グリルに敢えてインフィニティのバッヂを追加したのもそのため。試乗会場の明治記念館にて。
 
ズバリ“日本の軽自動車”
「RJC特別賞」に。

その前に、今年のRJCカーオブザイヤーでは一大トピックがあったことを記しておこう。実はボクもそのひとりを務める選考委員会では毎年、賞の在り方を検討しているのだが、今年は一部の委員から「軽自動車賞」を設けたいという声が上がっていた。けれども、もし軽自動車のどれかが大賞のC-O-T-Yそのものを獲得したら重複の恐れがあるし(実際そうなるところだった)、そもそも限られた軽の枠の中で微妙な差別化を計りながら熾烈なバトルを繰り広げているこのジャンルの特異性を考えると、たった1台だけを選び出すのは至難の技と思ったボクは別のアプローチを提案した。

この際、特定の軽に授与するのではなく、戦後半世紀余りの間、当初は未熟な代物だった軽をメーカー同士互いに切磋琢磨して技術を磨き上げただけでなく、今や販売面でも自動車全体の約4割を占めるまでになり、日本のモータリゼーションを確実に支えているという、その事実こそを称えたらどうかと。幸い、他の委員や会全体からも賛意を得た結果、このイレギュラーな「RJC特別賞」を授与することが正式に決まった。

対象はズバリ“日本の軽自動車”。そこにはスズキもダイハツもない、軽のメーカーならホンダや三菱も等しく対象になるわけだし、さらにはOEMで売っているトヨタも日産もマツダもスバルも、み〜んな同じ。いわば「頑張れ、ニッポン!」の心意気である。したがって、授与する相手は業界団体である“一般社団法人 日本自動車工業会 軽自動車特別委員会”となった。それにしてもなぜ「今」なのかと問われたら、それはハイブリッド並みの良好な燃費に象徴される技術的な高まりと普及の拡大、そして今年は税制が改訂され、「勝負の年」になりそうな気配とからベストのタイミングと判断したからだ。

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RJCの表彰式は毎年12月にアイビーホール青学会館で行なわれる。壇上には第1次選考を勝ち上がった3賞それぞれの“6ベスト”も顔を揃える。カーオブザイヤーのそれは次点のマツダ・デミオ以下、日産スカイライン、スバル・レヴォーグ、ダイハツ・コペン、ホンダN-WGN、三菱eKスペース/日産デイズ・ルークスと続いた。インポートは同様にMINI、BMW i3、アウディA3/S3セダン、ジャガーFタイプ・クーペ、フォルクスワーゲン・ポロの順。テクノロジーは同様にSKYACTIV-D 1.5エンジン(マツダ・デミオ)、スバル運転支援システム アイサイトver.3(レヴォーグ等)、S-エネチャージ(スズキ・ワゴンR)、レーダーセーフティパッケージ(メルセデス・ベンツCクラス)、LifeDriveコンセプト(BMW i3/i8)の順だった。
 

この報に誰よりも喜んだのが現在業界を代表してその任にある、鈴木 修上記委員会委員長。そう、希代のカリスマ経営者として知られるあのスズキ会長兼社長その人だ。同社のハスラーがC-O-T-Yに輝いたのは全くの偶然だが、実はそのこと以上に喜んだという。

ホンマかいな? と訝るのも無理はないが、どうやら本当らしい。なぜなら準備の都合もあって自工会に通知したのはC-O-T-Y決定の直前だったのだが、それを聞くや否や御年84歳にして今なお国内外を飛び回る超多忙な会長が即刻、なにがなんでも表彰式には出ると決めたのだそうだ。これには会場で居合わせたライバル各社も驚いた様子。通常こうした場面に付き合ってくれるのは広報やマーケティングの担当者、エンジニアなどで、トップ自ら登場するのはきわめて異例だからである。

直截なことで有名な「修節」がまたふるっていた。「人間、いくつになっても褒められるのは嬉しいもの。昭和48年に時の“産業計画会議”が『軽自動車不要論』を政府に提言してから今年で41年。軽なんかやめてしまえとさんざん虐げられ、疎んじられてきた。それが今やどうですか、作っているのはウチやダイハツさんなど4社だけだけど、売っているのは日本の乗用車メーカー8社全部ですよ。そのことも皆さんに身近に感じられるようになった理由だと思います。いつかだれか褒めてくれないかと思っていたら、今回RJCさんからようやくこうしてお褒めをいただいた」と受賞の辞を披露、やんやの喝采を浴びた。

 
独断と偏見のパーソナルチョイス

さて、本音の部分、“マイ・フォティ”である。この1年間で乗った数あるクルマの中からボク好みの1台をと問われたら、日本車ならホンダのヴェゼル、輸入車ならBMWのM3と迷わず答えるだろう。理由は至って簡単、痛快だからである。

まずヴェゼルだが、試乗したのはホンダ本社のある青山を基点に都内で小一時間だけ。しかも、一見ドライビングプレジャーとは縁遠いように見える“コンパクトクロスオーバー”なのになぜ? と思われるかもしれない。だが、それでも日本車には稀な天性のスポーティングキャラクターを確信させるには充分だった。グレードは前輪駆動の“ハイブリッドZ”(257万1429円)だったが、なにより良かったのは操作感がカッチリと頼もしく、動きもデッドスムーズで正確なステアリングだ。ホンダ車でこれほどの出来は(まもなく次期型がデビューするはずだが)生産中止になって久しいあのNSX、それもとびきり硬派の“タイプR”以来と言ったら言い過ぎかもしれない。それくらい気に入った。

ヴェゼル? はて、聞いたことがあるような……と思ったら、やっぱりその昔、丸目のヘッドライト周辺を飾ったカバーリングのことだった(ただし、綴りはbezel)。それとvehicleを掛け合わせた、いずれにしても造語である。
ヴェゼル? はて、聞いたことがあるような……と思ったら、やっぱりその昔、丸目のヘッドライト周辺を飾ったカバーリングのことだった(ただし、綴りはbezel)。それとvehicleを掛け合わせた、いずれにしても造語である。

エンジンも今や本物のそれを併用する時代だからシャレにもならないが、かつて我々を「電気モーターのように滑らかな」と唸らせた、あの初代シビックを彷彿とさせるストレスフリーな回転マナーが甦ったのである。やや小振りで掌にシックリと馴染むステアリングホイールや心持ち硬めの乗り心地、そして適度にタイトなセミ・バケットシートも気持ちがいい。

ホンダのクルマづくりは「LPL(=開発責任者)次第で如何様にでもなる」のだそうで、腰高なプロポーションの不利を補って余りあるキビキビ感は確かにエンジニア個人の意志と意図とを想わせるに充分だ。惜しむらくは最近のホンダ車共通のゴチャゴチャ感。サイドウインドーのグラフィックスなど基本フォルムはキレイなのに、ガンダム風の面構えやあらずもがなのフィン、モール、プロテクター類のせいですっかり凡庸になっている。

 

所変わってこちらは千葉県袖ヶ浦のフォレストレースウェイ。この日の主役はモデルチェンジしたばかりのX6だが、ついでに恒例の“BMW大運動会”を兼ねているとあってパドックには最新のBMWとMINI各車がズラリ40台。その中で偶々選んだのがM3(セダン)だが、これには心底刮目させられた。スポーティなことを身上とするBMWの中でも特に腕に縒りを掛けて仕立てられるのが“M社”の各モデル。M3は旧型のV8から伝統の直列6気筒(新設計ツインターボ仕様)に換装され、エンジン特性の違いとユニット単体の重量差による「鼻」の軽さが操縦性を一変させた。後車軸にホイールスピンを抑える“アクティブMディファレンシャル”を備えることもあって、コーナーを攻めれば攻めるほど面白いように曲がってくれるのである。

都心からほんの1時間ちょっとで行くことのできるサーキット、フォレストレースウェイ。M3の試乗車は“ヤス・マリナ・ブルー”が鮮やかだった。フロント255/35R19+9J/リア275/35R19+10Jの“Mライト・アロイ・ホイール ダブルスポーク・スタイリング437M”は27万8000円高。
都心からほんの1時間ちょっとで行くことのできるサーキット、フォレストレースウェイ。M3の試乗車は“ヤス・マリナ・ブルー”が鮮やかだった。フロント255/35R19+9J/リア275/35R19+10Jの“Mライト・アロイ・ホイール ダブルスポーク・スタイリング437M”は27万8000円高。

怒濤のような勢いで431PSものパワーを炸裂させ、7600rpmの高みまで回り切って乗り手の身体をドーンとシートに押し付けるエンジン。ステアリングホイールを握ったままパドル操作で電光石火のチェンジを可能にする7速DCT(ツインクラッチギアボックス)。その他、アナログメーターをはじめとするややスパルタンな雰囲気のインテリアや結構ビシビシと手荒なもてなしで迎える乗り心地なども、このクルマを選ぶほどのドライバーなら却って頬を緩ませるに違いない。お蔭で1台3ラップまでとされたサーキットランだが、コースが空いていたのをいいことに結局3クールも愉しんでしまった。“マイ・フォティ”にとっての難敵はやはりお値段。M3は昔からポルシェ911とタメを張るほどの高価格車だったが、今や標準状態でも1104万円、“Mカーボンセラミックブレーキ”など数々のオプショナルパーツが組み込まれていたテスト車に至ってはなんと1334万4000円にも上った。

 
侮るなかれ、「たった2.3ℓ」のマスタング

……と言われても俄かに信じ難い向きも多いことだろう。実際、フォード・マスタングやシボレー・カマロなどアメリカ生まれの“ポニーカー”と言えば5ℓ級の大排気量V8エンジン付きと相場が決まっていた。4ℓを切る廉価版のV6仕様は単なるファッションか主としてレンタカー向けの需要(本国では結構これが多い)に応えるものだったのである。けれども、まあ機会があったら乗ってみて下さい。実際にステアリングを握ってみると悪い予想が外れ、ビックリするに違いないから。

10年振りにモデルチェンジされ、日本でもこの春から売り出される予定の6代目は取り敢えず“EcoBoost”2.3ℓ直4ターボエンジンと組み合わされるが、プレス用の事前試乗会で乗った新型は旧型のV6を確実に上回る314PSのパワーと434Nmのトルクを遺憾なく発揮、箱根ターンパイクの長い登り勾配でも終始グイグイと加速し続け、コーナーではパワースライドまで演じてみせるほどの力強さを披露したのである。かつてのように高回転域で頭打ちになるようなこともなく、直4でありながらどことなくV8のようなビートが混じるサウンドもなかなかだ。

アメリカだねえ、このカッコよさを見よ! 途中ダサい時期もないではなかったが、新型は‘64年登場の初代に近い雰囲気を持っている。デザインのキレがいいのだ。
アメリカだねえ、このカッコよさを見よ! 途中ダサい時期もないではなかったが、新型は‘64年登場の初代に近い雰囲気を持っている。デザインのキレがいいのだ。

ヨーロッパ流の“ダウンサイジング”(小排気量/直噴+過給)がとうとう大西洋の対岸にまで及んだわけだが、それもそのはず、これまで圧倒的にアメリカ市場だけを向いていた「モンロー主義」のマスタングが今度は最初から世界中のマーケットを視野に入れ、そのためには初の右ハンドル仕様も開発、2015年後半からは日本にも導入するのだという。新型第1弾となる350台限定販売の“Mustang 50 YEARS EDITION”は専用ロゴ入りのプラックやスポーツレザーシートなどを手土産に奢りつつ465万円のバーゲン価格を実現した。だいいち、なかなかカッコイイじゃないですか。V-O-T-Yに推したい1台だ。