DEN PLUS EGG『D+E MARKET Ashiya Cont’d』オープン。夢に描いた暮らしを、夢で終わらせない、イマジネーションを広げるお店が誕生。

(2014.11.04)
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妄想は夢を現実にするステキなマジック。

「こんな家に住みたいな」と、外国を旅行したときや映画を観たとき、インテリア雑誌をぱらぱらとめくりながら思い描いた暮らしを、夢のままで終わらせない設計デザインチームがあります。『DEN PLUS EGG』では、家のリフォームのことを「リバイバル」と呼んでいます。家や暮らしそのものを再生させることを考えているからです。

『DEN PLUS EGG』がリフォームのために買い付けたヴィンテージのドアや家具、建具や灯り、同時に買い付けたテーブルウェアやインテリア雑貨、また自分たちがデザインした家に似合うとセレクトした生活雑貨やファブリックなど暮らしにまつわるいろいろなグッズをセレクトしたショップ「D+E MARKET Ashiya Cont’d」が今年9月にオープンしました。

わたしが『DEN PLUS EGG』を知ることになったきっかけは、今年始めに取材をした『エスキーナ』。設計&施工を手がけたのが『DEN PLUS EGG』と『hanauta』だったのです。8月の始めに縁があって苦楽園の事務所を訪ねることになりました。5年前にスタートした小さな事務所の目の前にあった和洋折衷の一軒家を買い取って、ショップ&事務所として活用しているのですが、驚いたのはショップと事務所の空間にまったく差がないこと! 

センスのいいインテリアショップやセレクトショップも、取材などで事務所に入るとそこは機能を追求した事務所然とした空間であることが意外に多いのですが、『DEN PLUS EGG』の事務所はスタッフの事務所もショップ同様に自分たちが提案している空間と寸分違わぬテイストだったのです。サイズも高さもばらばらのアンティークデスク、昔ながらのスイッチ、さまざまなアンティークライト…、本棚やイスはもちろん、机の上の小物までヨーロッパの古いもので埋め尽くされ、それぞれのデスクの前にはスタッフが好きな絵やポストカード、古い紙などが無造作に留められて、一瞬どこの国にいるのかわからななくなります。ミーティングに使われる会議室は、イギリスの古い図書館にでも迷い込んだような空間です。

その日、近々芦屋にオープンするショップ&アパルトマンを見にいくことになっているというので、工事中の「D+E MARKET Ashiya Cont’d」にお邪魔することになりました。そこで『DEN PLUS EGG』のオーナー富田さんと吉田さん、そして『hanauta』の上田学さんから「初めての買い付けコッツウォルズ妄想の旅」のお話を聞いて、新ショップへの期待がどんどん膨らみ、9月のオープンに駆けつけることになりました。

オープンしたてのショップを訪ねると、想像通りの素晴らしい空間。そこで、どのようにして「D+E MARKET Ashiya Cont’d」が誕生することになったのか、富田さんと吉田さんに、ゆっくりとお話をお伺いすることにしたのです。

ディスプレイされているのはイギリスDENBYのヴィンテージの食器。
ディスプレイされているのはイギリスDENBYのヴィンテージの食器。
『hanauta』上田さんの渾身のモザイク作品。
『hanauta』上田さんの渾身のモザイク作品。
実際の暮らしをイメージしたディスプレイ。
実際の暮らしをイメージしたディスプレイ。
すべてが古いアイテムの使い方のお手本になります。
すべてが古いアイテムの使い方のお手本になります。
吉田さんの大好きな『MAD et LAN』のキャンドルや今治タオルもセレクト。
吉田さんの大好きな『MAD et LAN』のキャンドルや今治タオルもセレクト。
デッドストックの布やリフォームに使うための布も計り売りしています。
デッドストックの布やリフォームに使うための布も計り売りしています。
2009年、どきどきの『DEN PLUS EGG』スタート秘話。

ふたりが出会われたきっかけはなんだったのか尋ねてみると……、「求人広告です」という意外なお答えが!!?

「ぼくが務めていた工務店グループのリフォームチームでインテリアコーディネーターの求人広告を出しました。キャリアのある人たちからたくさん応募があったのですが、たったひとりまったくインテリアや設計・施行の経験がない応募者がいました。それが吉田さんなんです。面接で彼女の持つ雰囲気やあいづちの仕方を見て、この人を採用しようと思いました。

キャリアを持っている人は即戦力としては魅力だし、いろいろなことに長けているかもしれないけれど、同時に住宅業界の常識が身に付いているという、ぼくにとってのマイナスな面も持っているんです。規格や価格、建築の常識、そのようなものに捕われないリフォーム部門を目指していたので未経験の彼女に決めました」と富田さん。

吉田さんは紅茶の専門店での仕事を辞めていろいろなアルバイトをしながら、大好きなカフェ巡りに没頭している女の子でした。数あるお気に入りのカフェのインテリアや雑貨が大好きで、「インテリアコーディネーター募集」の求人広告を見たとき、経験も資格もないけれど応募してみたのだと言います。

吉田さんを採用して間もなく、富田さんは独立することを決心します。その理由は、吉田さんの好きなもの、好きな世界が富田さんととても似ていたので、工務店グループを離れて自由な仕事をしたいと思い始めたからだといいます。個人の貯金を使って苦楽園で倉庫として使われていた小さな空間を改装、小さな事務所としてスタートしました。準備資金の最後の一銭を使い、住宅雑誌に小さな広告を載せました。

「『これで仕事が来なかったらコンビニでバイトすることになるかも…』と言われたんですけど、もともとしばらくフリーターでしたから元に戻るだけなので大丈夫ですよと言いました」と笑う吉田さん。

そんなときひとつの問い合わせが入りました。マンション一室をフルリフォームという、かなり大きいお仕事です。これは助っ人が必要だ、と、工務店時代に一緒に仕事をしていた設計士である『hanauta』の上田学さんに連絡を取ります。

ちょうどそのとき、上田さんも住宅設計事務所を辞して、個人でガーデニングを主に空間づくりをする『hanauta』を立ち上げたばかりだったのでタイミングはぴったり。3人は知恵を絞って大きなマンションのリフォーム案を進めていきました。

プレゼンの最終結果の電話がかかってくる土曜日、富田さんと吉田さんは電話の前で電話が鳴るのを待ちました。すると結果のお知らせではなく、クライアントからの問い合わせ電話がかかってきました。それは「とてもステキなプランで気に入っているのだけれど、オプション費用の詳細な記載がなく、どう考えればいいのですか?」という質問でした。富田さんは迷わず答えました「すべて込みです」。するとそのクライアントは「ではあなたに決めます」と電話口で決定をくだしたのでした。

本が大好きで大量の本を持っていた施主のために、長い廊下の両面をすべて書棚にするリフォームはとても気に入ってもらえ、オプションなしと言い切ったがために生じる経費の増幅も工務店時代の仲間が支えてくれて『DEN PLUS EGG』の初仕事は無事に完成。そして、そのリフォーム例を次の住宅雑誌に掲載したところ、問い合わせが次々とやってきて……。現在『DEN PLUS EGG』のスタッフは20人になりました。

  
  
 
リフォームで繋がった人たちの縁をずっと繋げていきたい。

リフォーム=リバイバルと並行して3年前からスタートしたのが「D+E MARKET」。これは、リフォームに使うドアや建具、照明や家具などをDIYで使う人のために販売しようと考えたらから。

「工務店時代からそうだったのですが、建物が完成すると施主さんとの繫がりはそこで終了してしまうんです。それはとても残念ですし、家は完成するものでなくずっと変化し続けていくものであってほしいと願っています。そこで、リフォームが完成したあともドアを変えたり、建具を変えたり、新しい家具を入れたりして、家の変化を楽しんでもらい、ぼくたちとの繫がりも継続できたらいいなぁと考えて『D+E MARKET』をつくることにしました」という富田さん。

この考えを持ち始めたころに、事務所の前にある和洋折衷の味のある一軒家が売りに出されます。「いつも窓越しに“純和風のお家もリフォームであの家みたいになりますよ”と借景として拝借していた一軒家が売りに出たということで、独立後間もなく不安だったのですが意を決して購入しました」。さすが強運の持ち主である富田さん、ここへ事務所を移転して、念願の「D+E MARKET」をスタートすることに。

これにはもう一人のサポーターがいます。会社を立ち上げた直後にたびたび訪れていたショップ『London Classic』のオーナー、アンティークの世界ではちょっと知られている存在。そのオーナーさんになぜか気に入ってもらった吉田さんと富田さんは食事に出かけるなどお買い物だけでない時間を一緒に過ごすようになりました。そんなある日、「こんどひとりでイギリスに買い付けに行くけれど、一緒に来る?」と言ってくれました。それまで海外買い付けをしたことのなかったふたりはイエスを即答。初めての買い付けに出かけることになりました。その当時まだショップをするつもりのなかったふたりにとって、この買い付け旅行が大きな機転となったのです。

「30年間2カ月に一度買い付けに出かけていた彼が、『君たちふたりには、ぼくの経験を全部教えてあげる』と、アンティーク街の倉庫の場所やシッピングのことなどイギリス買い付けのAtoZをすべて包み隠さずに見せてくれたんです。本当に感謝しています。あの経験がなければ買い付けの方法すらわかっていなかったと思います」という富田さん。

この経験が元になり、名次町で「D+E MARKET」をオープンする前に、『hanauta』の上田さんと吉田さん、富田さんの3人はコッツウォルズを中心に買い付けの旅に出かけました。狭い庭でもガーデニングはきれいにしよう、藤の木は必ず回そうなど、旅の間に3人の妄想は果てしなく膨らみ、大量の買い付けもできて、これからの夢は膨らむばかりでした。

『Cont’d』にはリフォームに使うパーツもいっぱい。
『Cont’d』にはリフォームに使うパーツもいっぱい。
量り売りしているリトアニアのリネンでつくったオリジナル小物も。
量り売りしているリトアニアのリネンでつくったオリジナル小物も。
水栓、水切り、棚…。あきらめていたキッチン水まわりがこんなにかわいく。
水栓、水切り、棚…。あきらめていたキッチン水まわりがこんなにかわいく。
こちらはトイレ。お気に入りの小部屋のよう。
こちらはトイレ。お気に入りの小部屋のよう。
トイレには機能とデザインを調和させる提案。
トイレには機能とデザインを調和させる提案。

そうして苦楽園「D+E MARKET」ができて1年ほどたったころ、今度は「すてきな“土地”があるんだけど」という話が舞い込みます。

そこで妄想チームの3人は、今度はイギリスに加えパリも目指しました。なぜなら芦屋のマンションのコンセプトを小さなスペースでもすてきなひとり暮らしができる「アパルトマン」にしようと決めたから。3人でありとあらゆる妄想力を駆使して、内装はもちろんエクステリアも含めてすべてに思い描いた「アパルトマン」を現実に落とし込んでいったという。

「外観の黒い雨樋は、ロンドンで買い付けたものです。雨樋はグレーのどこのマンションにもついているものしかないと思っている人は多いと思います。けれど実はそういう決まりがあるわけではなく、やろうと思えば建築のすべての規格、すべてのディテールは自分たちの好みに応じて選ぶことができるんです。住宅建築の既成概念をぶちこわしたいと思ってつくったマンションです」。

3階のオフィスにはアンティークのトビラがついている。もちろん、規格サイズではないので、ドアに合わせて壁をつくったという。好きなものを自分の暮らしに取り入れたい、気に入らないデザインやパーツを諦めないという確固たるポリシーがあります。

そしてこのアパルトマンの1、2階には『D+E MARKET Ashiya Cont’d』ができました。D+E MARKETのショップよりさらに進化して、ヴィンテージのアイテムばかりでなく、上質のスタンダード雑貨もミックスしてセレクト、さらに同じテイストで選ばれた塗料やパーツなどDIYアイテムも充実います。吹き抜けの空間に静かに流れる音楽は上質な室内楽。買い物をするだけでなく、佇んでいるだけで気持ちがよくなる特別な空間となっています。

「Cont’dというのは『Continued』という意味です。縁があって知り合ったすべての人たちとの繫がりを、断ち切らないようずっとContinueしていきたいという願いを込めています」と、目を輝かせて話す富田さんの瞳の向うには、もう次の計画が生まれているように思えました。

  • 4つのスピーカーから美しいピアノの音が響いています。
    4つのスピーカーから美しいピアノの音が響いています。
  • 吹き抜けを見下ろす2階席でほっと一息。これからイベントも企画されるようです。
    吹き抜けを見下ろす2階席でほっと一息。これからイベントも企画されるようです。
  • 雨樋、窓、ベランダ、非常階段などディテールを追求したアパルトマンの1、2階が『Cont'd』。
    雨樋、窓、ベランダ、非常階段などディテールを追求したアパルトマンの1、2階が『Cont’d』。

ASHIYA Cont’d shop
芦屋市大桝町3-18 TEL:0797-26-8284
OPEN:12::00~18:00 / CLOSE:水曜日

DEN PLUS EGG
空間リノベーション『ad-revival』

『hanauta』
作庭家、店舗設計・デザイナー