土屋孝元のお洒落奇譚。蘭奢待とは……。

(2011.05.16)


「香り かぐわしき名宝」展を見る。


先週に引き続き上野にて東京藝術大学大学美術館「香り かぐわしき名宝」展を見る。日本における香りの文化は世界的にも独特なようです。日本の香道を中心に香合の数々や蘭奢待: ランジャタイの香木模型、伽羅、沈香、白檀、貝香、麝香、の展示などもあり、一部の香りを実際に体験できるのです。

蘭奢待: ランジャタイとは正倉院御物で信長が正倉院より切り出したと云われる香木です、蘭奢待: ランジャタイとはその文字の中に東大寺の名を隠した雅号です、よくこの文字をご覧下さい、文字の中に暗号のように、東・大・寺と文字が読み取れます。信長も含め、足利義満、足利義教、足利義政、土岐頼武、明治天皇のみが、このランジャタイを切り出したと言われています。

京都松栄堂より香りに因んだ日本画。浮世絵、屏風絵、などのコレクション、同じフロアーにて同美術館のコレクションなども見る事ができました。円山応挙、菱田春草、鈴木春信、喜多川歌麿、池大雅、伊藤深水、鏑木清方、上村松園、小林古径、速水御舟、安田靫彦、小倉遊亀、藤田嗣治、小磯良平、など、なかでも速水御舟の墨絵は必見のモノです。

これと近いモノが山種美術館の墨牡丹ですが、東京藝術大学大学美術館では一人でゆっくりと見る事ができました。山種美術館では人気があり、そうはなかなかいかないでしょうか? 香道における、源氏香の役割や、香を用いた遊びの数々、香道の奥深さを改めて確認いたしました。東山文化における茶道、華道との関係など、わかりやすく展示されています。

 

季節により異なる香合わせ。

僕はお茶を始めてから香合の事もよく知るようになりました。季節により、香合には素材にも違いがあります。炉(畳に開いている炉 11月~4月)の場合には炭手前を基本にしていて「香合の拝見」もあり、焼き物の香合が多く使われます。あくまでも一般的にはですが。炉の時でも、独楽香合など塗り物もありますが。香も「練香」という いくつかの香りを混ぜて炭の粉と蜂蜜で固め丸くしたモノを使い、炉の中の火の付いていない炭の上に置きます。こうすると、「練香」が温められてゆっくりと香りが立ち始めるのです。

風炉(畳の上に風呂釜を置く 5月~10月)の場合には塗り物の香合が多く使われます。香合の中に入れる香は香木の事が多いですね。沈香や伽羅、白檀、などが一般的でしょうか、練香などは使わないと思いますが、これも流派や個人の趣味により一概には言えません。染付香合などは見るにも良し、触っての触感も良し、で気持ちの良いモノです。川喜田半泥子作の香合など見ていると自由に自分の好みで制作しているのがわかり、楽しい気持ちになります。自分でも半泥子にならい、好きなように香合を作りたいと思いますが、なかなか実現できないのです。ちょっとそれますが、以前読んだ小説で利休がある香合を大切にしている様が描かれていました、李朝青磁の香合とは珍しいモノです、その香合は利休が昔……あまり説明するとどうかと思うので、『利休にたずねよ』(山本兼一著 / PHP研究所)をお読みください。

香りで生活を豊に。
話を展覧会に戻し、展覧会で面白いと思ったモノは、着物に香りを移すためのお道具ですが、掘りごたつの骨組みの様な枠組みに着物を被せ、中で香を焚き込め香りを着物に移すのです、着物からほのかに立ち昇る香りは日本ならではの文化でしょうか。お茶時の時などにも、お茶室にて香合からの香りを感じる時、心が落ち着きます。海外に出かけた時、デパートの化粧品売り場を通るといろいろな香水や化粧品の香りが混ざり、少し気分を悪くする事もありますが、香りの濃度の好みには民族的な趣向もあるのでしょう。一般的には東洋人は強い香りを好まないと云われています。これも個人的な趣味趣向によりますが……。

同じ香りという事で、昨日見学した「国際バラとガーデニングショウ」では、デビッドオースチンのイングリッシュローズにおいては、花の種類によりまったく香りが違うというのです。オールドローズの香り、紅茶の香り、柑橘系の香り、フルーツの香り、ムスクの香り、ハーブの香り、株によっても、一日でも朝と夕方では変化するそうです。

僕も栽培しているので気がつくのですが、花の下にいなくとも時々香りを感じることがあります。デビッドオースチンの説明では2、3メートル四方にまで香るようです。バラにはストレスを癒す効果があるようですから、香合やバラの花を飾り生活を豊かにするのはいかがでしょうか。

 
 
 


「香り かぐわしき名宝」展
東京藝術大学大学美術館
http://www.geidai.ac.jp/museum/