光隠居とミヤビちゃんのちょっと聞けない日本の雅 -日本の常識 - ~その24 蒙霧升降蜩鳴(ふかきりふりそそぎ、ひぐらしのなく)~

(2010.08.25)

精霊棚の飾りつけを殆ど終えかけている中、件の二人はその飾り物の中で一際異彩を放っている胡瓜と茄子、飛行機の玩具について光翁が話そうとしている。

光隠居 胡瓜と茄子に南天の葉で耳を拵え、小豆で目を入れ、玉蜀黍のひげで尻尾を造ると、胡瓜は「馬」に、茄子は「牛」に変身する。それは先祖達の乗り物だ。
     
「馬」に乗って早く家に帰って来て頂いて、帰りは「牛」に乗ってゆっくりあの世に戻って頂く……。そういう意味がある。そこにある飛行機は、婆さんが「今時馬や牛じゃあ先祖も可愛そうだから、飛行機に乗って楽ちんにして差し上げましょう」って云って飾り付けたのが始まりだ。

ミヤビ 流石! ご隠居ママ。あの世の人達の御苦労まで考えていらっしゃる! どうせなら、スペースシャトルの玩具の方が此れから良くない?

光隠居 素っ頓狂な! この飛行機を飾るのには少し抵抗があるが、婆さんが亡くなる前に、「お盆の飛行機は必ず飾ってね! じゃないと速く帰られないから」って遺言のように云っていたから仕方ない。

ミヤビ ところで、この棚の四隅に建てた笹って、七夕の笹飾りに似てるよね~?

光隠居 七夕の笹も、お盆の精霊棚の笹も、それから、ほら、お家を建てる前に、地鎮祭ってやるときも笹が立ってるだろう。

ミヤビ あの空地を潰すお呪い(おまじない)ね! 小学校の頃、せっかく遊び場にしていた数々の空地が、あのお呪いの日を境に無くなっちゃうのよ~……。

光隠居 こらこら! 乱暴なことを云うものではない。ここらは新興住宅街なんだから、次々と家が建たなければ困ろうよ。兎に角、そのオマジナイの日に立つ笹も、皆同じ名前なんだよ。

ミヤビ 何ていう名前なの? 御呪い笹とか云わないでね!

光隠居 「忌竹」「斎竹」(いみだけ)と云うんだね~。

ミヤビ イ ミ ダ ケ?池田家みたいな名前ね。

光隠居 ラーメン屋や漫才師じゃないんだから! 忌竹は、普通の場所と特別な場所の境界示すために立てるのだ。七夕の笹も、今は一本しか立てないが、私の家では昔はこの精霊棚の様に七夕棚を拵えて、両隅に四本笹を立てていた。そもそもは四本なんだな。

ミヤビ へ~……。そういえば何かこの精霊棚も七夕飾りのように見えなくもないし、あの空地潰しのお呪いだって、お盆の精霊棚に似てなくもない。

光隠居 この笹で囲まれている場所を「縄張り」と云って、結界と云う特別なお呪いが罹った場所なのさ。

ミヤビ ナワバリにケッカイ?

光隠居 ほら見てごらん。笹と笹の間を、細い縄で繋いでいるだろ?上から見たら、四角形の形をしているはずだ。この部分は、とても綺麗に清掃がしてあり、悪い物や汚らわしい物が一つも無い場所ですと示すためにあるんだよ。反対から云うと、この縄で囲まれた場所には、悪魔や病気、悪い人は入ってこられない清浄な場所なんだ。だから、ここにはお供え物を頂こう等と思う輩は入ってはいけないのだよ! 

ミヤビ さーて、お迎えの火を焚かなきゃ!