道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 18毎度お馴染み輸入車顔見世興行 スーパー歌舞伎さながらの革命児テスラ。
(2015.02.25)絶対の自信
「皆さん誤解があるようです」 テスラモーターズジャパンの広報女史は30分足らずのインタビューの中でこの言葉を三度繰り返した。たしかに聞けば聞くほど、また、たった45分間ではあったものの、かつてない衝撃を受けた試乗の印象を考え合わせると、これまで勝手な推測をしていた我が身の不見識を恥じるしかなかった。テスラのEV(電気自動車)、モデルSはそれほど革命的なクルマである。
恒例の輸入車大運動会で
年に一度の日本自動車輸入組合(JAIA)試乗会。35回目を迎えた今年は霙降る2月5日がフリーランス向けの指定日だった。普段質素なクルマに乗りながら反面派手好きでもあるボクは100余台を数える参加車の中から事前に申し込む試乗希望車にマクラーレン650Sスパイダーやロールス・ロイス・レイスなど豪華・高性能車ばかり5台を選んで臨んだが、結果はあえなく4台が落選の憂き目に遇った。
すべてが常識破りのスマートさ
けれどもそれが却って良かったのかもしれない。今回随一の収穫であるテスラを際立たせたからだ。驚きはキーを受け取り、乗り込む前から始まっていた。ドアロック解除のためのリモコンがデフォルメされたモデルSのミニチュアなのだ。そのフロントを指でクリックすればそのとおり実車のボンネットが浮き掛け、リアをクリックすればテールゲートが半開きになる。しかも表示や印字は一切ない。
iPhoneみたいな、いやiPhoneそのもの
長年Macに親しみ、そのアイコンとグラフィクスを善しとしてきたボクは広い室内に足を踏み入れた途端、これはもうクルマと言うよりスマートフォンそのものだと思った。とかくクルマに付き物の煩雑なスイッチ類がない。ライトのそれにしても通常はステアリングポスト上のストークかダッシュボード端にあるものだが、あるのはPC並みに巨大なモニターだけ。実はその中にそのアイコンがある。
飛ばない空飛ぶ円盤
モデルSは全長4970mm×全幅1964mmの大型車。この点だけはオイルショックまで健在だった彼らの最も好む“フルサイズ”アメリカ車だ。そのこともあって実際にステアリングを握るまでは正直言って嵩を括っていた。ところがどうしてどうして、アクセラレーターを踏み込むやそれまでの粛々とした走りが一変、フェラーリやランボルギーニと全く同質の、脳漿を揺さぶる加速Gに見舞われた。
イーロン・マスクに対する誤解
「シリコンバレー発のカーメーカー」とばかり思っていたが、それは正しくないようだ。PayPal創業者として知られ、それをeBayに売却することで結果的に莫大な資金を得た彼はそもそも化石燃料への依存に疑問を抱き、それから脱却するために当初からEVとソーラー発電、そして宇宙事業(“SpaceX”社がそれ)に強い関心を抱き、件の資金を元に企業化したというのが真相だ。話は逆なのである。
ロードスターに対する誤解
懺悔をもうひとつ。すでに生産終了したテスラ初の量産車、“ロードスター”がデビュー当時から気になりつつ結局乗らず終いだったこと。最初はアメリカにしかクルマがなくわざわざ出掛ける必要があったことも一因だが、巷間「ロータス・エリーゼのEV版」と喧伝されたのを鵜呑みにしたのも理由のひとつだった。実際にはテストベッドに用いただけで、共通部品はたったの5%に過ぎないと言う。
バッテリーに対する誤解
この日の試乗車、“モデルS P85+”にはロードスター時代の旧三洋電機以来サプライヤーとなっている現パナソニック製のリチウムイオン「電池」が約7000本使われているが、パワーソースとしての「バッテリーパック」はあくまで自製。開発はパワートレーンエンジニアリングとヴィークルエンジニアリングの両部門が担い、それをCTO(チーフテクニカルオフィサー)のJ-B.ストローベルが束ねる。
モデルの変遷自体がVer. upに
「走るIT」ことテスラはある日突然OSを変えてしまうMacに似ている。スポーツカー、ロードスターの後は高級セダンのモデルS。その次はSのプラットフォームを流用しつつSUVに仕立てたモデルXとすでに決まっている。モデルSそのものもこの日試乗に供されたRWD(モーター1個の後輪駆動)は予約の受け付けを終了、今後はAWD(モーターが前と後ろに1個ずつの全輪駆動)仕様となる。