土屋孝元のお洒落奇譚。 文房具や画材など、こだわりなく集めたもの達について。

(2014.03.19)
ステッドラーとファーバーカステルの鉛筆、コピックペン。ステッドラーの方は正式名称は、ステッドラーマルス ルモグラフ製図用高級鉛筆 8B~6Hまで。ファーバーカステルはファーバーカステル9000番鉛筆 8B~6Hまで。©Takayoshi Tsuchiya
ステッドラーとファーバーカステルの鉛筆、コピックペン。ステッドラーの方は正式名称は、ステッドラーマルス ルモグラフ製図用高級鉛筆 8B~6Hまで。ファーバーカステルはファーバーカステル9000番鉛筆 8B~6Hまで。©Takayoshi Tsuchiya
ステッドラーマルス、スタビロ、
ファーバーカステル、三菱ユニ……

文房具という物は「男の……」と特集されたりして、色々とそれぞれにウンチクがあるようです。

僕はそれほどにはこだわりはなく、基本的に手紙や手紙に添える簡単な絵を描くために必要な道具と思っているので、そのためのモノを購入してきました。作品制作の画材まで広げると幅広くなりすぎるのでまた改めて。

使用している文房具。まず鉛筆は手紙を書いたり、スケッチしたりクロッキーや絵の下書きを描いたり、芸大受験予備校時代から、石膏デッサンを描くための道具でもありました。ステッドラーマルス、スタビロ、ファーバーカステル、三菱ユニ、とメーカーにより微妙に違う鉛筆の芯の色にこだわり、それぞれ、B、2B、3B、4B、5B、H、2H、3H、4H、と硬さの違いで表現される線の描き味にもこだわり、受験生時代には 石膏デッサンの光のあたる明るい部分の表現には硬めの鉛筆を、影になる部分には柔らかい鉛筆を隠し味で使いデッサンを描いていました。逆光の光の映り込み影部分にはさっ筆を使い鉛筆の線を消し表現したり……。あの頃は、それぞれ受験生個人個人が自分なりに研究した描き方があったと思います。

美大を受験したことのないかたのために簡単に、僕が受験した頃はデザイン、工芸科の受験では鉛筆石膏デッサンを4時間で仕上げるのです、油絵、彫刻科は木炭による石膏デッサン。日本画も鉛筆石膏デッサン。この石膏デッサンは受験番号順に位置が決められ最前列から三列目の後方まであります、自分の番号位置により仕上がりにも影響を受けますね。これは1次試験でこの後2次試験、3次試験とありました。石膏像にはそれぞれに作者があり、そのモデルとなった人物がいて由来を知るとまた その見方もかわるのです。それぞれの由来を ブルータス(ミケランジェロ作ローマ共和派リーダーの彫像、有名な ブルータスお前もか……。の台詞のあの人です。)最前列 見上げる角度の逆光7:3の位置が好きでした。マルス(アルカメネス作、ローマ神話の戦と農耕の神像)正面の顔が見える位置ですが僕はあまり好きではありませんでした、首の傾きが意外にも難しいのです。

ドナテルロ作 聖ゲオルギウス、ジュルジュ像。石膏像は上半身ですが、オリジナルは全身像で盾に十字があります。イングランドの国旗の聖ゲオルギウス十字でも知られてます、キリスト教の聖人のひとりでイングランドの守護聖人 ©Takayoshi Tsuchiya
ドナテルロ作 聖ゲオルギウス、ジュルジュ像。石膏像は上半身ですが、オリジナルは全身像で盾に十字があります。イングランドの国旗の聖ゲオルギウス十字でも知られてます、キリスト教の聖人のひとりでイングランドの守護聖人 ©Takayoshi Tsuchiya

ヘルメス(プラクシテレス作、ギリシャ神話の青年神像)どこから描いても肩の手が難しい石膏像でした。パジャント(ギリシャ時代の婦人をモデルに作られ作者モデルとも不明)正面ですが顔の傾きや表情は難しい石膏像です。モリエール(ウードン作、17世紀の喜劇作家の肖像彫刻)僕が好んで描いた石膏像で自分でも購入しました。ジョルジョ(ドナテルロ作、聖ゲオルギウス フランス語読みでジョルジョ、ローマの軍人でキリスト教殉教者像)僕が芸大受験の時に出題された石膏像でその時は三列目の後方で離れると難しい石膏像です。などが一般的でしょうか、少し変わった珍しい石膏像にはガッタメラータ(ドナテルロ作、騎馬像、フィレンツェの傭兵隊長騎士エラズモ・ダ・ナルニ騎馬像)全身像ではなく上半身の石膏像で顔に特徴があり描いていて楽しかった石膏像です。などがあります、それぞれギリシャ彫刻やルネサンスの作品などから型を取り、石膏で再現したもので、この石膏像にも松竹梅というか、型の正確さにより細かな部分が微妙に違いました。僕たちの受験生時代、芸大受験予備校には、それぞれ石膏デッサンにも特徴があったのです。

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新宿美術学院、通称 新美のデッサンは石膏像の色を表現するキレイな白っぽいものでした、すいどーばた美術予備校、通称 どばたのデッサンは立体感や塊感を出す少し墨っぽいデッサン、お茶の水美術学院、通称 お茶美はその間の中間のようなデッサンでした、それぞれ石膏像の立体感や塊感、光や影の表現などでデッサンの色は変わってくるのですが、目指すところは一緒だろうと思います。

受験当時に使っていた鉛筆はステッドラーマルスがメインです、芯の色が青みがあり好きでした。鉛筆の外側の色もブルーなので、筆入れに入った姿も気に入っていましたね。他には三菱ユニ、スタビロを揃えていました、赤みのある芯の色で、これらは逆光部分の表現などで使ったり、影の多い石膏像には色を変えたりしていました。ブルータスにはスタビロかユニ、モリエール、ジョルジュにはステッドラーマルス。こんなこだわりは、僕たちお茶美の一部でのことです。

水彩にはファーバーカステルの鉛筆、コピックの耐水性のペン
絵の具はウィンザー&ニュートンの固形のアーチストカラー。

いま、僕が月に一回 教えている自由が丘の水彩教室で使っているのは、カステルのデッサン、クロッキー用の芯の太い鉛筆です、この鉛筆は描きやすくてお気に入りのひとつです。ファーバーカステルのデッサン、クロッキー用の芯の太い4B鉛筆です、この鉛筆は描きやすくてお気に入りのひとつです。
これにコピックの耐水性のペン、0.05mm、0.1、0.3、0.5mm、これで輪郭やおおまかな形をとり水彩で仕上げています。
透明水彩絵の具はウィンザー&ニュートンの固形のアーチストカラーシリーズ。水彩筆はラファエル、ホルベインなど。色鉛筆は色がキレイなのでファーバーカステル、たまにウィンザー&ニュートンのオイルバー、シュミンケやレンブラントのソフトパステルなど。

毛筆ではぺんてるの耐水性の顔料インクの極細筆ペン、なむらの面相筆、鳩居堂の「裁花」という毛足の長い筆を使い手紙を書いたり、岩彩や墨で絵を描き手紙に添えたりしています。
墨は鳩居堂の胡麻油煙の「好古」、「精煙」青墨、など。

たまにガラスペン、パーカーのデュオホールド万年筆、インクはモンブランのブルーブラックなどもスケッチには使います。

水彩紙はファブリアーノ、アルシュ、ケント紙、手紙や墨絵やイラスト用には鳩居堂特漉かな用半紙、鳥の子、土佐半紙などを使っています。

それぞれ特性があり、仕上がりの効果も違うので描くモノやテーマに合わせて使いわけています。

銀座菊秀製はさみ。創業100年になる歌舞伎座前の刃物店でオリジナルの紙切りはさみでよく切れて便利。研ぎ直しもしてくれます。©Takayoshi Tsuchiya
銀座菊秀製はさみ。創業100年になる歌舞伎座前の刃物店でオリジナルの紙切りはさみでよく切れて便利。研ぎ直しもしてくれます。©Takayoshi Tsuchiya

硯は父の硯をそのまま受け継ぎ、硯箱は父方のお祖母さんの硯箱で80年くらい前に尋常高等小学校成績優等賞で頂いたという漆の文箱です。

数年前に自分で購入した韓国の現代作家の金さんの白磁の硯があるのですが、なんだか汚すようなので まだ使ってはおりません、もっぱら文珍代わりです。

文房具には、これにハサミやペーパーナイフが入るのでしょうか、ハサミは『銀座 菊秀』で購入した紙切りハサミで刃が長く一回のストロークで20cmくらいは切れるものです。ペーパーナイフも同じく菊秀製でダマスカス鋼と言われる刃が付いたペーパーナイフです、郵便物が多いのでこのペーパーナイフは活躍中です、鉛筆の芯を削るのは普通のカッターで鉛筆削りは使いません、芯を長く出しておきたいので鉛筆削りは使わないですね。

こだわりなくとはいえ、手紙を書いたり、絵手紙を描く道具なので少しはこだわります。