光隠居とミヤビちゃんのちょっと聞けない日本の雅 -日本の常識 - ~その18 三級波高魚化龍 3~

(2010.05.19)

月桜町の光翁宅では、薫風を爽やかに受けながら、件の二人が端午の節句に付いて面白そうな話をしている。

光隠居 わしの子どもの頃?

柏の葉をユックリ捲り、中にある翠色のお餅を一頻り頂く。

ミヤビそうよ。ご隠居も男の子の時代があったんでしょ?

4っつ目の『柏餅』に手を付ける。

光隠居 そんなに食べたら、夕飯が頂けなくなるぞい!

ミヤビ いいの!

光隠居 甘い物は別腹とは云うものの、また儂が叱られるわい!

ミヤビ それで、ご隠居の子供の頃の話は?

光隠居 五月五日の朝、菖蒲のイッパイ入った凄く良い香りのお風呂に父と一緒に入って、出てくると父が何本かの菖蒲の両端を紐で括って作った菖蒲蘰(しょうぶかずら)を頭に被る。

ミヤビ しょうぶかずら~?

光隠居 ミヤビは藁苞(わわづと)、ん~、藁に包まれた納豆を見た事が無いかい?

ミヤビ あー、一度横井の棟梁がお土産で持って来てくれた奴?

光隠居 そうそう!あんな形に菖蒲を拵えて、それを頭に被るんだよ。そして、兜が飾ってある家の居間に連れて行かれると、紅白の小さな幟(のぼり)が双方五十本ずつあって、それを一本一本幟立てに立ててゆくんだ。全部立て終わると、『エイエイトオ~』『エイエイオウ~』と鬨の声を家中で掛けられて、『柏餅』と『粽』を頂いた。

ミヤビ 幟ってスーパーとかラーメン屋さんにある長細い旗の事?

光隠居 そうそう、あの『大安売り』って書いてある奴の小さい物。50㎝位の物かな。

ミヤビ そこに『大安売り』って書いてあるの?

光隠居 人をスーパーの特価品みたいに云うんじゃありません!何も書かれていない幟じゃ。昔、人の上に立つ人間は、沢山の人達に支えられていた。その沢山の人達に、いつか支えてもらえるように、根気よく一本一本幟を立てるんじゃ。

ミヤビ じゃあ、家中で掛けられたトキ?の声って?

光隠居 あ~。『エイエイトウ~エイエイオウ~』か。エイエイトウは営々と言って休みなくと云う意味で、トウは建てると云う意味。即ち、休みなく国を建てろ。エイエイオウは永く永く王として栄えよと云う意味じゃ。

ミヤビ ふ~ん。じゃあ、ご隠居は王様だったって事?

光隠居 王様って言う意味だけじゃなくて、人を引っ張って行けるような立派な人になれ!って言う意味さ。

ミヤビ それって、すっごい期待されてるってことじゃない!ご隠居って凄いんだね~……。

光隠居 期待されて居なかったと云えば嘘になるが、どんな親だって、子どもに良い仕事をしてもらって、良い人物になって欲しいと祈るのは当たり前だよ。

世間の荒波打ち勝つ強さを、この少女に持ってほしいと思う光翁がいた……。

 

つづく

*三級波高魚化龍(さんきゅう なみたこうして うおりゅうとかす)

中国の夏王朝を開いた禹が黄河の治水をした際、三段の瀧ができ、
これを登る魚は龍になるという故事から転じて、
鯉のぼりや登竜門という言葉が生まれました。
立身出世の志を表しています。