土屋孝元のお洒落奇譚。手袋にまつわる
いろいろなことや思い出を。

(2012.11.02)

男のおしゃれ、手袋。
忘れられがちですが。

男のお洒落に最近忘れられているものといえば、手袋でしょうか。

暖冬が続く傾向でもあり、電車やビルの中は暖房が効いていて活躍の場も少ないのですが。これは僕の個人的な意見です、いろいろな手袋を購入してきて一番機能的で使いやすいと思うのは、エルメスのドライビンググローブ。

このドライビンググローブとは名前の通りクルマを運転する時に使うためのものです、昔のステアリング(ハンドル)が細くて滑りやすかった時代のクルマ用の手袋です。今のクルマはステアリングも太くなり革でコーティングされたりしているので手袋無しでも扱いやすく作られているのですが、気分的にこのグローブを使うと運転がうまくなったような気がするのです。

僕の手袋(グローブ)はペッカリー製のタン(明るい茶色)でデザイン的には指先まで隠れるタイプ、手の甲側はデザインとして開いています。指先だけ出るようなデザインもあるのですがこの形にしました。手にはめてみると手に吸いつく様な感触で指先の感覚も繊細です。今ではこのグローブを運転に使わずともよいクルマなのですが、このグローブを手にはめて運転していると、なぜかステアリングが軽く運転し易い様な気がしていますが、これもあくまで個人的な問題なのかもしれません。

このペッカリー製のペッカリーとは以前は「野ブタ」と呼ばれていたようですが最近は違う名前で呼ばれていて、野生のイノシシより少し小型で鯨偶蹄類(くじらぐうているい)ペッカリー科、不思議に思う方もいるでしょうね。鯨とイノシシや豚が同じ仲間だったとは、遥か昔には鯨も陸にいたらしいのです。日本名は「ヘソイノシシ」と呼ばれる動物で動物園でも飼育されています。この革は軽くて通気性も良く(毛穴が3つあります)摩擦にも強い素材です。僕は秋から冬にかけてドライブする時にはジャケットの胸ポケットにポケットチーフの代わりにドライビンググローブを入れて出かけることにしています、お洒落と実用を兼ねて。

ドライビンググローブ。これから出番がふえます。手に吸い付くような感じです。
エルメスのカーフ
ミッドナイトブルーの手袋。

もう一点、同じくエルメスのミッドナイトブルー(カーフ)の手袋はスーツの時に合わせていて、このミッドナイトブルーにも意味があり黒(ブラック)だと光の当たり方によりチャコールとか赤みを感じたりするのですが、ミッドナイトブルーは一般的な黒に見えるためスーツに合わせることにしています。前述のドライビンググローブに比べて内張があるためか、使っているうちに内張のカシミヤが破れ、表面もたびたび雨や雪に濡れたこともありシワシワになっていました。でも、自分なりにメンテナンスして陰干し乾燥させてワックスやクリームを塗りこみ乾拭きで仕上げ、完全ではないのですがまあまあ見れるくらい元に戻りました。

エルメスに行き相談したところ、「持ってきて下さい」との事で大抵のモノはステッチを外し縫い直し、内張りも張り直してきれいに直せるようです。

さらにもうひとつ、僕は普段使い用に同じくエルメスのペッカリーの手袋を使っています。こちらは内張が無く一枚革で濃茶とタンのツートーンのデザインです。

よく使うためか二十年も前からのモノなので指先のステッチに解れがあり、糸が切れていましたが自分で針と糸で縫い直して修理しました。こうするとこの素材は何年たっても変わらずに使え重宝です。

おなじく修理で思い出したのは、30年も前に購入したマッキントッシュ(ゴム引き)のコートもエルメスにて見てもらったところ「修理できますよ」との事でした。もう一つグリーンのリザードのお財布も20年も使っているうちにストラップが傷んでいたのを直してもらいました。ストラップを交換し経年変化を経た本体の革の色にうまく合わせてくれました。全てのステッチをバラバラにして縫い直し使用感はそれなりにあるのですが、本当に綺麗になって戻ってきました、さすがパリの工房です。自分が気に入ったモノを永く手元において使う生活も良いものだなあと思うのですが いかがでしょう。まあ修理にはそれなりに多少お金がかかります。

カーフのミッドナイトブルーの手袋、内張りも張り直してもらおうと思います。
手袋の思い出。
鹿革製グレイのスウェード手袋。

手袋に話は戻ります、手袋の思い出をひとつ。母の生前、僕がパリに出かけた時のお土産に手袋を買って帰ったことがありました。パリやフィレンツェなどの都会には街なかに手袋の専門ショップがあって様々な素材や色々な色、日本では見ないような明るい色のセンスの良い手袋が売られているのです。

その時も仕事の後、一人でレ・アールの界隈を散歩していた時、専門店を見つけて入り 母のために鹿革製グレイのスウェード手袋を選びました。以前にプレゼントしたバンブーバックがグレーのペッカリースウェードだったので、それに合うようにと、母はたいへんに気に入ってくれたのに、あまり使うのを見たことはありませんでした。

チョコレートのパッケージと見間違えるようなお洒落な化粧箱に入れられてリボンが掛けられると まさにプライスレス値段以上だったことを思い出します。母の遺品を整理した時にその箱のまま出てきました。初めての海外出張で息子が買ってきてくれた手袋を大切にしまっておいたのでしょう、僕も50を過ぎたその時の母と同じ年齢になると母の気持ちがわかるような気がします。最期の病室にシャデイとエルトンジョンのCDを持ってきてと言った母の笑顔を思い出しました。

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もう一つ、これも手袋です。今ではあまりというか ほとんど使う機会は無いのですが、ベアスキンの白い手袋も持っています、こちらはずいぶん前に英国屋さんでブラックスーツを仕立てた時に購入したものですが、「この手袋は正装した時に手に持つためのもので実際に手にはめて使用することは無いのですよ。」とお店の人から聞きました。今でもコレクションし保管していますが、こちらはなかなか出番は来ないですね。

普通はシーズン毎に新しい手袋を購入するのでしょうが、あまり愛着がないものだと何処かで無くしたり、置き忘れたりしてしまうような気がします。

これは例ですが、ビニール傘など何処にでも置き忘れてしまうものです、良い傘を使っていると忘れないですよね、手袋も同じようなことでしょうか。

僕はこの手袋達を忘れた事はありませんから。