デキる女のデジタル仕事術。- 5 - デジタルメディアを通じて食の楽しさを伝えたい。
PR&Webコーディネーター 畑礼子さん
(2010.11.29)
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一見何の関連もなさそうな経歴が
畑さんの中ではすべてつながり、
おいしさを伝える食のPRの業務に生かされている。
転職を機にWebデザインを独学で学び、現在はPRを主体としたコーディネーターという肩書きを持つ畑さん。経歴は個性的で興味深い。
「もとはレストランの広報を担当していて、パソコンの操作に長けている方ではなかったのですが、退職して独学でWebデザインを学び、会社を設立しました。業界は異なりますが、食関連のクライアントが多く、それまでの経験が活かせたと思います。Webサイトだけではなく、顧客管理やショッピングサイトのアドバイスをするなど、コンサルティング的な立場で関わらせていただくことも。3年ほど前からは、レストランなどの広報・PRを手がけています。
たとえば、取材や撮影の立ち会いや、打ち合わせなど、外に出ることもありますが、パソコンの前に座っている時間が8割ほどですね」
PRというと華やかな職場を思い浮かべるが、デスクトップパソコンとノートパソコンを2台ずつ使うバリバリのデスクワーカーだ。
「PRって、成果主義なんですよ。いくら活動をしても、メディアなどに紹介されないと『いったい何をやっているの』と言われてしまう。仕事量に比例して成果が出るわけではないのがつらいところ。ただ、Webの知識があるので、いろいろアドバイスができるのが強みです。
レストランの方はパソコンに詳しくない場合も多く、TwitterやSkypeをご存じないケースも。『こんなことがしたい』と漠然としたご相談を受けて、『こんなツールを使えばこんなことができますよ』とアドバイスすることもあります」
PCを使っての主な仕事は商品のプレスリリース(発表資料)を作成すること。プレスリリースの書き方ひとつで反響が変わってくるという。
「大きな企業が相手だとクライアントと何度もレビューするのでしょうが、私が担当するのは比較的小さな企業。細かい部分までチェックする専任の方がいない場合もあります。ディテールにはあまりこだわらずインパクトを重視される方が多いですね」
そのため、プレスリリースの仕上げにはグラフィックソフトをい、フォントや配置を工夫することになる。印刷することもあるので、見た目の美しさは大事だ。
「プレスリリースはメールで配信することが多いのですが、編集部に商品とともに持参して説明することもあるので、印刷できるクオリティが必要。 直接お会いして説明する場合は丁寧に説明を加えることができますが、お渡ししたプレスリリースは他の人の手にも渡り、独り歩きする部分もあります。PRにとっては一番重要で神経を使うツールですね。今回Office for Mac 2011のWordを見せてもらいましたが、美しい印刷物が簡単に作れそう。Macも合わせて買いたくなりました」
メディアに取り上げられるためには商品の内容が大事であることは間違いない。しかしその壁を破るのも畑さんの役割だ。
「成果を出すには、タイミングも大事。また、コピーや、コンセプトの打ち出し方も。さまざまなアイデアを受け入れてくれるクライアントの場合は、壁を破りやすい。逆に、制限が多いと、アプローチが限られますので難しいですね。
先日担当させていただいた八百屋さんは、野菜を20種類ほどしか扱っていないんです。通常はどれくらいだと思いますか? 町の八百屋さんでも、100種類くらいは扱っています。20種類というのは相当少ないのですが、厳選して本当にいい野菜だけを扱っている。だから、『野菜のセレクトショップ』というコピーを付けたんです」
小さなお店ながら、新聞や、全国区の媒体に取り上げられるほど反響があったという。
クライアントをいくつも担当しているため、顧客とメディアのリストは膨大な数になる。
「Excelはよく使います。顧客一覧やスケジュールを表にしたり、データ検索・抽出ができるので案件ごとにメディアリストの管理にも。交通費や見積の計算にも役立ちます。仕事とは別に、家計簿代わりにも使っています。Excelが大好きなんです(笑)」
足し算や引き算だけではない複雑な関数も使っているとか。「理系出身なので、数式に抵抗がないんです」という。
プライベートでは、パソコンから毎日のようにブログをアップ。食べたもの、飲んだものの話を中心に、“美味しい”写真をふんだんに取り入れている。食への愛情が伝わってくる、優しい雰囲気のページだ。
「たまに趣味の登山に行きます。普段着では登れないような本格的な山で、パソコンは持って行きません。最近はモバイルが身近になりましたが、常に持っていると仕事から離れることができません。年に数回でもパソコンを持たない日があるとすごく幸せですよ。
普段は、職業柄あらゆる情報を取り入れるようにしているので、要らないものもたまってくるんです。山に登ることでいらないものが整理され、必要なものだけが残るイメージかな」
ほかにも、アイデアが必要なときには、好きな料理をしたり、小説を読むなど、あえて対象から離れてみるのが畑さんなりの方法。さらに、異業種の友人たちと話をすることも大切だとか。アイデアに関係のあることだけではなく、まったく関係のない話の中で発想がひらめくこともある。
いざアイデアをまとめるときには、Wordやテキストエディターを使う。Wordには強い印象があり、
「Windowsを会社に導入する前に、マス目のあるワープロソフトを使っていたんです。Wordに変わるとき『今までは決まった枠に文字を並べていたけど、Wordは自由自在に文章を書き込んでいける無限に広がるキャンパスのようなもの』と教わりました。だから今でも、ものを考えるときにはWordの真っ白な画面を開いて考えます。期日が迫って、焦っているときも多いですが……」
テキストエディターで小さなアイデアをメモして、コピーのアイデアが数種類出てきたらWordに入力する。フォントのスタイルや大きさを変えたりして試し、メインコピーやサブコピーのイメージをふくらましていく。まさしくキャンパスのようにビジュアライズして書いていくのだ。
「『おいしさ』は実際にはアナログでしか伝えられないものだけど、おいしさを感じられる何かをデジタルスキルを有効に使って伝えていきたい」と語る。そのために、Wordのキャンパスでキャッチコピーを練る日々だ。
渋谷区神南のトスカーナ料理店「BIODINAMICO」は、オープンの前段階から畑さんが手伝ったレストランで、いまや予約の取りづらい店のひとつ。敏腕ディレクターの藤巻氏と天才肌の辻シェフと、次回の取材の料理について打ち合わせ。