光隠居とミヤビちゃんのちょっと聞けない日本の雅 -日本の常識 - 〜その2 封筒に付いている六角形の物〜

(2010.01.07)

月桜町には白川 光(しらかわ ひかる)翁(おう)(町では『ご隠居』と親しまれている)は住んでいる。綺麗に新年のおしつらえをされた和室に不釣り合いな2人。新年2日の昼時、素っ頓狂な声を出してお年玉の入った袋を繁々と見入るミヤビちゃんと『ご隠居』が居た。

光隠居(以下 光) 『のしあわび』だよ。

ミヤビ(以下 ミ) それなに?

 その菱形って云うか、小さな六角形の真ん中に、黄色い紙みたいな筋が入っているだろ。それが『のしあわび』なんだよ。

 ふ~ん……。」覗き込むように見る。

 ミヤビは『あわび』って云う貝を知っているかい?

 『あわび』って、お寿司屋さんとかで頂くあの消しゴムみたいな白くてヌルっとしてる奴?

 消しゴム?何処をどう見たら消しゴムなんだか解らんが、片側にしか貝が付いていない、ちょっとグロテスクな食べものさ。

 でも、この筋があの消しゴムとどう関係があるのよ?

 ミヤビの言う消しゴムを、林檎の皮むきのように薄くむいて天日で干し、アイロンを掛けて切ったものが『のしあわび』さ。アイロンを掛けることを『火熨斗を掛ける』といって、昔は平らにする事を『のす』って言ったんだよ。

 ふ~ん。っで、なんでその『のしたあわび』を封筒に付けるの?

 『あわび』は今も昔も大変貴重な食べ物で、獲るのも難しいが、獲った後日持ちがしない。でも美味しいから、なんとか時間が経っても頂きたいと思った昔の人が、薄く切って干す事を考え付いた。

 なんかイカのオツマミみたいだね。

 ほ~。いい所に気がついた!そうさ、干物にすれば長持ちがするし、栄養価も高まる。だから、神様や大切な人に贈ると喜ばれた。その『のしあわび』を付けた贈り物は、相手に対する敬意を示すようになった訳じゃ。

 へ~……。」そう言ってのしを引っこ抜き、やおら口に放り込む……。

 こらこらこら!口から出しなさい!それは食べられない!

 ぶふぇっつ。なに!美味しいって言ったでしょ?

 美味しいと言えば何でも口に放り込む癖を直しなさい!それは黄色い紙じゃ。

 紙~っ?『あわび』って言ったでしょ?

 もっと立派なのし袋には本物の『のしあわび』が添えてある事もあるが、その位の額ののし袋は似たような黄色い紙が入れてあるんだよ。

 あ~・・・。確かに学校の前にある文房具屋さんには、この赤い糸と白い糸が付いているだけの物じゃなくて、色々な糸が綺麗に飾られている高そうな封筒があったわ!あれには本物の『あわび』が付いているのね?

 ん~……。そうとも限らんが、間違ってもいない。とにかく、それは黄色い紙じゃ。『のす』という言葉が『伸ばす』意味があり、長く伸びると云う縁起の良い言葉になって、形だけ似ていれば良い物になった。

 
なにやら面白そうな顔つきで、『ご隠居』とミヤビちゃんの話は……。

つづく