土屋孝元のお洒落奇譚。ホテルマンは靴を見る……。

(2010.12.24)

スーツの話や、シャツの話をしてきましたが、
まだ靴の事はお話していませんでした。

僕には気に入って履いている靴があります。
その靴に初めて出会ったのは、
エルメスのお店へ偶然、
スカーフを見に行った時でした。
もう25年ぐらい前になりますね。
その頃、僕はポケットチーフに凝っていて
あのエルメス柄のポケットチーフをいつも、探していたのです。
ポケットチーフサイズで
綺麗に見える柄はなかなか見つからず、
今でも、どこのお店にも置いてあるというわけでもなく、
よい柄を見つけた時に手に入れないと無くなってしまうからです。
何気なく店内を見ていて、
店の奥で綺麗なローファーを見つけました。
普通に見えるのですが、
どこかスッキリとしていていかにも履きやすそうな靴。
当時、かなり高いと感じる値段でした。
迷いましたが、
「良い靴は長く履くので、高くとも元は取れるのではないのかな」
と自分に言い聞かせ、購入することにしたのです。
それは間違いではありませんでした。

©Takayoshi Tsuchiya

その靴は今でも、現役でどこも傷まず履けています。
皮底の修理 張り替えはいく度となくは していますが、
表の皮の部分など、シワが深くはいる事もなく
「元気にいてくれて」この人称表現はおかしいかもしれませんが、長いこと自分の側にいてくれる物には愛着が湧いてくるものです。
ローファーの表面も艶が増してきました。
余裕のある方でしたら、
『ユニオンワークス』という修理屋さんへ預けるとよいと思います。
後から、その靴が『ジョン・ロブ』という
イギリスのビスボークメーカーのもので、
エルメスのものではないと知りました。
それから、十数足、履き続けてきましたが、
みんな、いまだに、現役です。
丁寧に履いて、手入れをきちんとしていれば、
このローファーの様に25年を経ても履けるものです。

まずは、自分の足に合う、
履き心地の良い靴に出会う事が大事ですね。
価格とか、デザインとかは、一旦忘れて、
自分の足に素直に聞いてみることです。

僕も いつもいつも、ロブだけを選ぶわけでもなく、
ちょっと浮気をして『エドワード グリーン』とか、
『グッチ』とか『チャーチ』とか『ジョンストンandマーフィー』とか、『山長』とか、ノーブランドのものとか、選んでみたりしています、が……。
僕は、スーツにはローファーは合わせません。
少しカジュアルなジャケットとブルージーンズの時などに、
黒いローファーを合わせる事が多いです。

©Takayoshi Tsuchiya

スーツに合わせる靴で一番お洒落なのは、
かのウィンザー公が愛用したギリーシューズと呼ばれる靴ですね。
ビジネスシーンには難しい靴なのですが、
この靴はタッセルで編み上げた靴で、
甲の部分が開いていて、
ソックスがかなり見える様なデザインです。
スーツやシャツやネクタイの柄や色に合わせてソックスもお洒落して合わせると、かなり上級な表現になります。

例えば、スコットランドのどこかの家のチェック柄(グレー地に鮮やかな色が効かせてある様なイメージ)のネクタイに
同じ様なチェック柄のソックスを
グレイフランネルの六つ釦一つ掛けスーツに合わせ、
シャツはレギュラーカラーの白いものでしょうか、
茶系でもかなり暗い茶色か
黒と白のコンビのギリーシューズを履く、とか。

アメリカントラッドなシングルの細身のスーツ(三つ釦一つ掛け、三つ釦二つ掛け)には、
ウイングチップか、プレーントウ、モンクストラップ(これは修道士が履いていた靴からの意味です。)などがオススメです。

僕はカーフのダブルモンクストラップをスーツに合わせるのも好きですね。
初めから いろいろなデザインの靴を持つのは大変ですから、
最初はプレーントウの紐の編み上げのものを購入すると間違いはないと思います。
これにも外ばねと内ばねのデザインの違いがあります。
スーツを着て出かけ、その両方を試し、
自分には どちらのデザインが似合うのか確かめれば、
良いでしょう。

靴にもなんとはなしのと言うか、暗黙の決まりがあります、
冠婚葬祭の時には黒のプレーントウが間違いないでしょう。黒でもローファーやウィングチップは避けるほうが無難です。
この黒のというのに意味があるのです。

普段の時には、欧米では黒ではなく茶色の靴が一般的です、
これも個人的な趣味や職業にもよりますから……最近ではこれが正しいと決められませんね。
よく、街の噂では、ホテルマンが客の時計と靴を見ると言われます。
どんな服装をした人でも、
靴を見るとその人がわかると言われて、
なにも、新しいいかにも高そうな靴を履いているから良いというわけではなく、
きちんと手入れされた履き慣れた靴を履いた人は信用されるらしいですね。

靴一つでも、疎かにはできないものです。