土屋孝元のお洒落奇譚。夏らしい夏。シアサッカーのコットンスーツ。

(2010.08.24)

ひさしぶりに夏らしい夏になり、熱中症に気をつけなくてはいけません。

ラニーニャの影響か2004年以来だとか、僕は何年ぶりかで夏用のスーツを出しました。

夏スーツとはシアサッカーのコットンでできたダブルの六つ釦二つ掛けの服で袖口はターンナップの折り返し付き、袖口は釦が全て開きます。袖口裏地仕上げは額縁仕上げと決めていました。
着こなしとして袖口の釦(4釦)は二つは開けて左右を非対称にします。

例えば右は1番目と3番目を開ける、左は2番目と4番目を開ける。

パンツはサスペンダー使用でウォッチポケット付き、ベルト用のループはありません。(このパンツには弱点があり、お腹の調子が悪い時にはけっこうヒヤヒヤもので、詳しくはご想像におまかせします。) 昔、ある時期、このカタチにこだわり銀座にあるテーラー(銀座英國屋ニ丁目店)でオーダーをしていました。自分で資料を調べ 植民地スタイルの様なスコット・フィッツジェラルドのグレートギャッツビーのような服(スーツ)で、今のファッション的には少しパンツ幅が広すぎるのかなあとは思いますが。

釦は白蝶貝(南洋真珠の母貝で柔らかな輝きで光る。)でピークラペルには、フラワーポケット(胸に花を挿す時に花の茎を入れるためのポケット)が付いています。

花(バラやカーネーションなど)を挿すこともあまりないのですが、デザインとして作りました。たまには友人の個展のオープニングなどに白バラを挿し、出かけたものですが・・・。

スーツの裏には三つ葉かんぬき(刺繍でポケットの両端をかがっている、このカタチが一番強度的に強いようです。)の付いた名刺入れのための隠しポケット、ペン万年筆用のポケット、普通のスーツの裏にもある蓋付きポケットなど。

表生地を裏までまわすお台場仕上げ(これは生地の採寸の正確さを必要とし、特にダブルのスーツの場合ぎりぎりまで生地を使う、袖口と身頃、背中の生地の流れを合わせるために。)上着を脱いで見せることはないのですが、裏側を見せても十分キレイなデザインです。

出来上がってからも何度か手を入れ直して、今でも着られるように仕立て、これもオーダーのためか、作業賃のみで何度でも相談に応じてくれるので助かります。物を大切に着たい人にはお勧めです。最初に少し高いかなとは思いますが、何年も着られるのでECOにもなり、僕のスーツで古いのもは25年にもなるものがありますが、これだけ着れば年あたり安いものになりますよ。こんな難しい注文をこなすには職人さんも勉強し、昔のスタイルを再生しなければなりませんし、職人さんの技術を残すためにも必要な事ではないでしょうか。

こんな日本の技術を残しておかないと、みんななくなってしまいますから、僕1人で頑張っても まあどうしようもないことですが 伝統的な技術はなくしてはもったいないと思います。

これは生地にも言えることですが、もうなくなった(生産を中止した)生地のスーツも何着かはあります。キッドモヘア(生後3ヶ月のアンゴラ山羊の毛)などが入った夏向きの生地はなかなか手には入りませんね。おどろくほどの高額を出せば手に入るのでしょうが。
スーツの生地も着物の生尺も手頃で良いものがだんだんなくなってきました。

©Takayoshi Tsuchiya

スーツに話をもどして、この猛暑のなか、チェンミンさんのコンサート(上野の国立博物館での中国文明展9月5日まで、のため)に出かけた時に、久しぶりにきた着心地はやはり本物の生地と仕立てにより、この暑さでも涼しく過せて満足でした。先日の茶事でも小千谷縮(おじやちじみ)の松煙染め(松脂を燃やして採取した煤で染める、深みのあるチャコールグレーで気にいっています。松脂は和歌山県紀州龍神村で産出されるのが最上質とされています。)の着物で出かけましたが これもまた、夏の茶室では涼しく過ごせましたね。
小間での茶事は炭の火があるため、見ため以上に暑いものです。

やはり本物の生地や着尺、職人さんの技術は残しておかないといけないと思います。

少し不便な事でも楽しみながら生活することも たまには良いものです。