土屋孝元のお洒落奇譚。新年です。ホンモノには力がある。
メンズファッションを考える。

(2012.01.10)

ファッションとは、
お洒落過ぎてもいけないのかもしれません。

昨年はいろんな事がありました。さて今年は、と考えていて、今までお洒落奇譚を書いていて、まだ書いていないことはなんだろうかと考えました。

男のファッション洋品でスーツ、シャツ、ネクタイ、コート、靴、帽子、カフス、ポケットチーフ……女性から見て わかりにくいのは何でしょう。

みなさん それぞれに好き嫌いの好みがあるのでしょうから、これのここがわかりにくいとかと決めるのは難しいでしょうね。女性の方たちには違いのわかりにくいスーツにも微妙ですが流行があり、英国式のサビルロースタイル仕立てかナポリのクラシコイタリア仕立てかによりデザインは違うのですが、流行遅れのデザインのスーツは着にくいものです。

スーツの襟のデザインでも例えば、ノッチラペルとピークラペルの違いとか、どれだけの差があるとか、釦の数でデザインがかなり変わり、着こなし上、留めない釦があるとか、ないとか。(普通シングルスーツはノッチラペルです。シングルピークラペルスーツは特別モノです。)また、本切羽と呼ばれる袖口の釦は全部留めるのか、留めないのかとか。裾の仕上げはシングル、ダブル、どちらが正式なのかとか。ポケットのフラップは出すのか、出さないのかとか。

こだわり出すといろいろとあるものですが、今は着る人の好みで、決まりはないのではないでしょうか。

付け加えるなら、サービス業では相手に不快な印象をあたえたり、あまりにも度を越してお洒落過ぎてもいけないのかもしれませんね。

オーダーメイドスーツにツギ、
これがカッコイイ、と思うのです。

僕、昔 仕立てたオーダーメイドスーツを直しながら着ています、古いものでは20年も前のものですが、これには訳があり、今では手に入らない珍しい生地であったり質感がとても気に入っているからです。この質感とは永く着てみないと実際にはわかりにくいものです。例えば釦でも黒水牛の角釦の良いものなど手に入りにくくなっているようですから……。

以前、聞いた話ですがイギリスではカッコ良いスーツの着こなし(イカした着こなし)とはお祖父さんの仕立てたオーダーメイドスーツにツギとか修理した跡が残ったものを普通に着こなすことだとか、この修理の跡がないとダメなようです、嘘かまことか聞いた事がありました。

確かフレッド・アステアはオーダーメードした新しいスーツを床に叩きつけたり、使用人に着せて馴染んだところで着たという話もありますね。スーツ生地の話ではないのですが、父の形見の着物など、45年以上も前のものですが今でも古い感じもなく着ています。確か「牛頸紬」と言う紬で石川県白山市白峰地区(旧地名牛頸)で生産される紬で、糸で釘を抜けるほど丈夫だとかというものです。独特の光沢感で気に入っていて茶会にはいつも着て出かけます。

本物の持つ良さとは、いつの時代になっても、誰が見ても普遍的で変わりがない価値、という事でしょうか。

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いろいろとある紳士洋品の中でデザインがまったく変わらないのは、帽子くらいですね。男の帽子は機能が優先された形で変化が少ないですから、例えば、ベレー帽などは変わらない帽子の典型です。

バスク帽と呼ばれバスク地方の男達が被っていた帽子が始まりです、かのヘミングウェイもスペイン内戦時の有名なポートレートを見るとバスク帽、ベレー帽? を被って写真に写っています。

あの革命家チェ・ゲバラもポートレートはいつもベレー帽です。

僕が以前、撮影させてもらったハリウッドの俳優AGさんも颯爽とベレー帽にステンカラーのスプリングコートでロケ現場に現れたことがありました、カリフォルニア ロサンゼルス郊外の南ヨーロッパにありそうなミッションスクールでのロケーションでした、爽やかな初夏にとてもダンディで、こんな着こなしもありか、と思い記憶に残っています。

本物には力があり、いつの時代でも古さを感じないということでしょう。