光隠居とミヤビちゃんのちょっと聞けない日本の雅 -日本の常識 - 〜その3 封筒に付いている六角形の物〜

(2010.01.12)

月桜町の正月2日の昼時、白川 光 翁の和室では、端正に座った『ご隠居』とその翁から頂いたお年玉の包を穴の開くように観察する隣家のミヤビちゃんがいた。

光隠居(以下 光) ミヤビ。中身が気にかかるだろう?

ミヤビ(以下 ミ) アーアー。お年玉~。開けて見ていい?

 駄目じゃ!『のし』の付いた物はちゃんと納めて、んー……。ポケットに入れて、後から見るものじゃ。大人になれば、その袋の見た目で、中身の事もちゃんと判るようになる。

 え~っ! 大人になると、封筒の中身まで判るようになっちゃうの~?

 大人に透視能力がつくような事を云うものじゃない。見た目じゃよ、見た目。

 その赤い糸と白い糸。これを『水引(みずひき)』と云う。

 ミズヒキィ~?

 左様(さよう)。『水引』じゃ。簡便にした物は印刷の物もある。

 サヨウ?勘弁?

 左様は『そうです』。簡便は『簡単で便利』の意味!

 あ~……。この間パパが頂いた贈り物に付いていた紙の事かな~・・?

 左様! しかし、簡便では済まされない時には、この『水引』をちゃんと結んだ物で贈る。この『水引』は和紙を糸のように紙縒って(こよって)

と云って、徐に『ご隠居』はティッシュを親指と人差し指で摺り合わせ、一本の糸を作る。

 こうやって作られた紙の糸を染料で染めた物を『水引』と云う。

 へぇ~……・。『ご隠居』器用だね~・・。

 この『水引』を五本若しくは十本束ねて、紙で包んだ贈り物の上を紙が解けない様に結んで渡す。五本より十本の方が、より敬意を示し、色々な形を結び分ける事で、何の贈りものかを開けずに判るようにした。

 じゃあ、『水引』の結びで、この封筒の中身がどれ位入っているか判る訳?

 ルールと云う程でもないが、暗黙の了解がそこにはある訳じゃ。ミヤビに渡したのし袋は紅白の五本だから、青い紙が三枚くらいかな~……。

 三枚~? ありがとうございます。じゃあ、『水引』の色は?

 おうおう、げんきんな事を云うと思ったら、またまた良い処に気がついた! 赤と白は『紅白』と云っておめでたい時に。金と銀は『婚礼(こんれい)』の時に。黒と白は『慎む(つつしむ)』時に。銀や黄色と白は『葬儀』の時に。様々な色を使って結ぶ時は『慶事』に。

 『慎む』時の黒と白って、なんか縁起が悪いって感じだけれど、『慎む』って何?

 心(こころ)の真(まこと)と書いて『慎む』。本当に心から真実を向ける時、例えば死んだ人との別れや悲しむ時、神仏に向かう時、黒と白の『水引』を結ぶ。最近は人が死んだ時にしか使わなくなったけれど、黒と白は色の中で特に尊い色とされてきた。だから、人が亡くなった時は慎み敬いその場を最高の場所にするために、黒と白の鯨幕(くじらまく)をする。

 『水引』の色だけで、気持が伝えられるって、なんか素敵な気がするね~。 

 
青い紙三枚と聞いて複雑な気持ちのミヤビだが、『ご隠居』の話は中々面白い。つづく

つづく