籾山由美の東京-島根 小さな暮らし北へ帰る鳥の群れ。
松江から。

(2013.03.14)

なぜ忘れた望遠レンズ!
渡り鳥撮影。

『北帰行(ほっきこう)』、歌謡曲のタイトルです。覚えている方もあるでしょう。シジミ漁のおじさまとのおしゃべりから出て来ました。シベリアなど北へ帰る渡り鳥を指して。松江地方は渡り鳥が毎年やって来る街です。そして今は北へ帰る時期。せっかくの機会です。北へ旅立つ渡り鳥を撮りに行こうと決めました。浜佐田という所を目指して早朝にママチャリで向かいます。

現地でゴム長に履き替え、右にカメラバック、左に貴重品入れをたすきがけして準備万端。広い田んぼの真ん中を目指してザクザク分け入ります。ズゴッとぬかるみに入る足。よかった長靴で、ふ~。田んぼの真ん中に見える川とため池。その周りに生える葦の向こうに鳥の群れ。撮らなきゃ。勇み立つ気持ちを抑えながら葦の中に入ります。いたいた!ざっと100羽くらい、いるね。葦を踏むペキペキという音と共にスーッと泳いで離れる群れ。あああ、待って待って。焦る私。カメラのキャップを落とす、尻餅をつく、散々。しかも望遠レンズがない!ええい、ままよ、撮れたなり! と連写する。

やっぱり写真の鳥の影が小さい……どうして東京に望遠レンズを忘れたのか。後悔後に立ってしまった。これでわかるのかなぁ。でも渡り鳥のマガモの群れがいると信じて欲しい。ちいさすぎて黒ごまにしか見えなくても想像してください、お願い。それでも渡り鳥は飛んで行くのです。

春を迎える島根です。

川に浮かぶ鳥を数に入れずともこの溜め池だけで100羽はいます。これでほとんどいないとこのあたりの方はおっしゃる。「 今はシベリアあたりの北に帰る時期だけんねぇ。こっちは春になるけん北帰行だわねぇ~。もっとおったけど時期だけんマガモもだいぶ減ったわねぇ。」と、シジミ漁のおじさまが教えてくれました。

出雲弁がおっとり聞こえて心が緩みます。シジミ漁の舟に寄り添うように泳ぐ渡り鳥の白鳥も鷺も確認。しかしこのシーン、撮影を逃しました。残念。写真はマガモの群れです。ぜひとも画面をクリックして大きい写真で見て頂きたい。ちょっと演歌です。(笑)


飛来、北へ帰る渡り鳥、どちらも季節の区切りを感じます。島根は春を迎えます。

シジミ漁、汽水にて。

舟溜まりでシジミの仕分けです。この辺りは浜佐田といい、流れる川は日本海と宍道湖とをつなぐ汽水域(きすいいき)です。宍道湖も汽水。海の満ち干きで海水と淡水が入り交じります。それ故に口に美味しいシジミのお味噌汁ができると言えますね。

実はシジミのお味噌汁は滅茶苦茶インスタント。洗ったシジミを水の入った鍋に適宜ぽいと入れます。そして煮立ててお味噌を入れるのみ。シジミが冷凍保存してあると本当に朝がラクチン。松江では毎朝のお味噌汁はシジミが定番。頂き物として実家にあり事も多い。すると自然に東京に配達されるのです。それで簡単に食卓が賑やかになるのですよ。嬉しいですね。シジミ漁は毎朝です。その漁に出た複数の舟の様子を観るのも楽しい景色。機会があったらぜひ観て欲しいですね。

ご夫婦でのシジミ漁。シジミの仕分けは根気が入ります。

ああ、昭和は遠くになりにけり。

浜佐田の田んぼを走る農道です。渡り鳥の餌場の田んぼを左右に分ける電信柱にわだち。昭和生まれにはとても懐かしい風景です。渡り鳥を指してシジミ漁のおじさまが口にした『北帰行』も昭和の名曲。アキラが歌ってましたっけ。そう、その小林旭主演映画『ギターを持った渡り鳥』。ありましたね~。背中にギターを抱えエルビス・プレスリーのような長いフリンジの革ジャケットを着ていたような気がします。映画の中でギターを弾いて歌い、日本とは思えないお話だったような記憶が……昭和ですね~。

で、話を戻して、ここ浜佐田は山が遠く広々です。この道をまっすぐ行って左に曲がれば渡り鳥のいる川と溜め池。前の日はザンザン降りの雨でしたがこの日はめでたく日本晴れ。気持ちのよい朝でした。残る渡り鳥の群れもだんだん小さくなっています。北に帰る渡り鳥は今が今年の最後でしょう。また来年。

前日の雨が道に残ります。ズックを蹴って飛ばしてわだちに落として泣いた道。思い出します。