道田宣和のさすてーなモビリティ vol. 4クルマの“今”—輸入車篇
パスタもいいが、ヴルストが絶品。

(2012.02.20)

JAIA(日本自動車輸入車組合)主催
プレス向け(合同)試乗会。

もしかしたら1年のうちでボクが一番心待ちにしている日かもしれない。毎年2月の初めに大磯プリンスホテルで開かれるJAIA(日本自動車輸入車組合)主催のプレス向け(合同)試乗会がそれである。

「合同」の意味はJAIA加盟のインポーター各社がそれぞれ最新モデルを持ち寄り、相乗りの形でメディアやフリーランスの試乗に供するからだ。もともと好きで入ったこの世界だもの、真新しい“ガイシャ”ばかりが100台近くもズラリと顔を揃えるこのイベントは、譬えてみれば高級レストランの豪華なブッフェのようなもの。万難排してでも駆け付ける価値があり、事実CG時代は雑誌やカーグラフィックTVの取材で欠かさず参加してきた。フリーになってからは特に有難い。

で、その“役得”をフルに活用し、今回は専ら興味と欲望の趣くままにクルマ選びをしたのが以下の8台。一日フルに乗り終えて心地良い疲労感と共に得た結論が、「やっぱりクルマって面白い」だ。ボクにはクルマ離れなんかしてる暇はありません。

なぜこの時期かは、かつてアメリカ車が先鞭を付けた毎年秋からの“モデルイヤー”制度の下、新型車が手許に届くのがこの頃だったため。
その名に熱い歴史のすべてが詰まっている
アルファ・ロメオ
ジュリエッタ・クアドリフォリオヴェルデ/
直4 1.75ℓターボ235PS/388万円

松の内早々(1月5日)に発表されたばかりで正式には発売(2月4日)前だったクルマ。“147”の後継車である。イタリアは熱い。アルファはもっと熱い。そしてクアドリフォリオ(四葉のクローバー)ヴェルデ(緑の)は100年前の草創期以来メルセデスなど内外のライバル相手に幾多の輝かしい勝利を積み重ねてきた直参レーシングチームのシンボルマーク。そもそもジュリエッタこそは戦後のアルファ復興を成し遂げた1950年代の名車なのである。期待しないわけがない。

通常ここから先、我々モータージャーナリストはハンドリング(操縦性)がどうのと難解な講釈を垂れるわけだが、紙幅が足りない。そこでテクニカルタームに頼らない印象を一言。申し込み殺到で半コマの45分に削られた束の間のランデヴーでボクは甘酸っぱい青春の日を思い出したかのごとくだった。とにかく今どき珍しい完全なマニュアルトランスミッション(6MT)というのがいい。運転に対して一生懸命になれるから。青い恋のように。

アルファ・ロメオ ジュリエッタ・クアドリフォリオヴェルデ。

緑の四葉のクローバー、“Quadrifoglio Verde”!!

ファッションとユーティリティ
アウディA7スポーツバック3.0TFSIクワトロ/
V6 3ℓスーパーチャージャー 300PS/879万円

小柄でシャキシャキしたジュリエッタから乗り換えるとまるで別世界。インテリアは落ち着いたトーンの木と革、そして1m91cmにもなる全幅の広さがラウンジの一角にいるような寛ぎを覚えさせる。多分これが日本車だとしたらそこで終わり。眠たくなるような安楽さと引き換えに一切の若々しさを失っていたに違いない。そうしたクルマのことを我々はその昔“旦那グルマ”と呼んで揶揄したものだ。

けれどもこの豪華大型車、見掛けによらずなかなかのスポーツマンなのである。アイドリングストップが効いた時は文字どおりの無音だし、普段も粛々と走るのはもちろんだが、やる時にはやる、アクセルを強めに踏むと俄然モリモリとした力が湧いてスポーツカー並みの速さを披露する。日本での受け止め方は「A6の上を行くクーペ」だが、本国ドイツではセダンより荷物の収容量が大きく、使い勝手にも優れる実用車としての美点が高く評価されている。ことほど左様にまだ日欧の自動車文化は異なる。

アウディA7スポーツバック3.0TFSIクワトロ。

A7のテールゲート(荷物室ドア)に仕組まれたスポイラー。120km/hに達すると自動的に起き上がり、80km/hまで下がると格納される。

病み付き必至
ポルシェ911カレラ4 GTS/
水平対向6 3.8ℓ 408PS/1607万円

シャカシャカ、ヒュンヒュン、クォーン、カーン、タンタンタン……。静かなA7に比べると911は音の固まりだ。無粋を承知で解説すれば、順にアイドリング時のエンジン音、加速初期のそれ、同中期、クライマックス、そして太く硬いタイヤが路面の継ぎ目を拾って発する音、となる。当然、乗り心地だって相当なもの。特に、このクルマにはPASM(ポルシェ・アクティブサスペンション・マネジメントシステム)と呼ばれる可変装置が付いているのだが、スポーツモードを選ぶとまるで洗濯板––と言って分からなければ小石を敷き詰めた道とでも言っておこう––の上を走っているかのようだ。

だが、ファンにはこれが堪らない。「ポルシェとナントカは新しいほど良い」というのが長年このクルマの変遷を見てきたボクの結論。並みの911でも切れ味鋭いのにGTSはそのまた上を行くシャープさ。空冷エンジン時代を彷彿とさせる“ヒュンヒュン”と金属バットがボールの芯を捉えた時のような“カーン”には心底惚れ込んだ。

ポルシェ911カレラ4 GTS。

許容回転数上限の7400rpmまで一気に吹ける。

物凄いけど、フツー
メルセデス・ベンツC63 AMGクーペ/
V8 6.2ℓ457PS/1085万円

暖簾分けした弟子の評判がいいので、師匠が懇望して呼び戻した形のAMG。アーマーゲーではありません。ドイツではアーエムゲーですが、せめて英語読みでエーエムジーと呼んでやって下さい。メルセデスの高性能車部門、AMGが腕に縒りを掛けて仕立てた“63”はそんなわけでブランド商法花盛りの今日、重宝されまくり。SクラスにもEクラスにも用意されるが、メルセデス最大のエンジンを後輪駆動系のクルマで一番小さなCクラスに積んだものだから凄まじいのは当たり前。その名の通り6208ccもあるエンジンをフルに働かせると本来素人の手に負えないほどの獰猛さを露にするはずだ。

現代のクルマはESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)等の安全装置を備え、ある程度は危険な事態を未然に防いでくれるが、度を過ぎると尻を振っていわゆるスピン状態に陥るから要注意。雷鳴が轟くようなエンジン音も迫力満点だが、それでもどこか鷹揚な乗り味を持つのがメルセデスならではの特徴と言える。

メルセデス・ベンツC63 AMGクーペ。

なんだか見るだに凄い。C63はこのクーペのほかにセダンにもワゴンにも用意されている。

万年青年の清々しさ
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI/
直4 2ℓ 211PS/368万円

モデルチェンジしてから2年経ち、細かいところまで含めてその後変更はないということだったが、自分にとってはたしか乗り残していたクルマの1台だし、常に気になる存在なので念のために乗ってみた。さすがは世界のベストセラー(日本でも輸入車中不動の1位)だけあって、普通のゴルフそのものが実用車の模範。あらゆる点で良くできていて本当にいいクルマだが、先代と通算6代目になる現行車は特にその感が強い。

主な理由は燃費やCO2削減を目的に自らヨーロッパのトレンドセッターとなった小排気量+ターボ方式によるエンジンが実に小気味良く、単なる実用車の域を超えて運転する楽しさを倍加したからだ。普通のゴルフは排気量僅か1.2ないし1.4ℓの慎ましさだが、それで充分。スポーツ版のGTIは2ℓだが、これは以前なら3ℓ級に相当する。これに輪を掛けているのがDSGと呼ばれる独自のAT(ノーマルは7段、GTIは6段)で、電光石火の素早さでポンポンポンと自動変速する様は快感そのものだ。

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI

ヨーロッパ車は布地シートの出来が良い。
不器用な愛
ジープ・ラングラー・アンリミテッド・サハラ/
V6 3.6ℓ 284PS/398万円

もはやお笑い種だが、クルマに詳しくない日本人はある時期まで4輪駆動車のことをジープと呼んでいた。ジープは第二次世界大戦時の軍用車両に端を発するアメリカ製のオフロード4WD車で、歴とした固有名詞。ここに登場するラングラーはその最新モデルだが、持って生まれたDNAはそこここに散見される。家で言えば土台に当たる梯子型フレームを持つのもそのひとつだが、こう見えても国交省の型式認定上は「幌型」(ただし、ハードトップとして)なのである。屋根が脱着式で、その気になればボルトを緩めてウインドスクリーン(フロントガラス)がボンネットの上に前倒しできるから。

もともと軍用がスタートだっただけにちょっとやそっとでは壊れないくらいヘビーデューティな代わりに作りは少々大雑把。日本向けに右ハンドルなのは努力賞ものだが、無理してそうしたため足許は狭く、AT(5段)のポジションもレバー右側に坐る肝心のドライバーからは見えない。時代に配慮したECO運転表示がご愛嬌だ。

ジープ・ラングラー・アンリミテッド・サハラ。
グローブボックスにはこう書いてある。
マニュアルは七難隠す?
フォード・マスタングV8 GTパフォーマンス・パッケージ/V8 5ℓ 418PS/530万円

今まで経験したあらゆるマスタング中の白眉。スポーツ性の高さでようやくシボレー・コーヴェットに追い付いた。もっともライバルは同じシボレーでも1960年代以来“ポニーカー”(マスタングは野生馬を意味する)仲間を形成しているカマロの方。ともに初代は若者たちを中心に絶大な人気を誇ったが、比較的安く買える「なんちゃってスポーツカー」だったため次第に陳腐化、かつての勢いを失った。

だが、今度の“パフォーマンス・パッケージ”は全くと言って良いほどの別物。2010年にモデルチェンジした最新型をベースにサスペンションやブレーキを強化した結果、ヨーロッパのリアルスポーツにも遜色ないシッカリ感を獲得するのに成功した。その結果、持ち前の豪快なパワーがより鮮明に印象づけられ、さらにそれを強調しているのがシリーズ唯一の良く出来たマニュアル(6段)トランスミッション。力がダイレクトに伝わるのだ。全盛期を思い出させるメタリックなダッシュボードも雰囲気充分である。

フォード・マスタングV8 GTパフォーマンス・パッケージ。

ドアにも野生馬が疾る。
ホットな韓流キュイジーヌ?
ランボルギーニ・ガヤルドLP560-4ビコローレ/
V10 5.2ℓ 560PS/2532万2850円

仰け反る加速、狭まる視野、背後で金切り声を上げる甲高いエンジン。ガヤルドに乗るのはこれが都合3回目だが、その度に思う、これは一種の麻薬だと。取り敢えず、このクルマの話題は文字通りツートーンカラーになったエクステリアの色だけ。しかし、一度味わったらあの快感は忘れられない。刺激が余りにも強烈な最大の理由はほとんど地面に這いつくばうようにして坐るから。

なにしろ全高はたったの1165mmで、屋根の高さが人の腰くらいまでしかない。“ガルウィング”などと違って普通に横開きするスイングドアは外から想像されるほど乗り降りに不自由は来さないが、着座位置でのアイポイントはまさにレーシングカートのそれ。カートはその圧倒的な低さ故に速度が実際の2倍にも3倍にも感じられるものだが、こちらはそれに加えて絶対的なスピードそのものが最高速325km/h! にもなりなんとする途方もなさなのだ。目が点になったとしても少しも不思議ではない。でも、毎日これだと疲れるかも……。

ランボルギーニ・ガヤルドLP560-4ビコローレ。
進行方向に対して縦に置かれたV型10気筒エンジン。