なんでもない日に贈りたいもの。 かけがえのない「いのち」を知る絵本。

(2010.12.06)

絵本『いのちのかぞえかた』が、千倉書房千倉真理氏の「いつかこの作家の書き下ろしで」と、5年越しの想いの末出版された。手にしたのはそれから数週間後のこととなる。小雨の東京にて。表紙を飾る微笑みがもれるタッチのイラストは、ニューヨークタイムスなどでも活躍のフランス人セルジュ・ブロック氏によるもの。著者は、小山薫堂氏。この共作は本編で3作目となるという。

左、著者小山薫堂氏。右、千倉書房千倉真理氏。学生時代のアルバイトが出会い。千倉氏が渡欧の際出会った絵本の表紙の男の子(後に日本語訳小山薫堂版「まってる」となり日本にて出版)を見て氏を思い出したのが再会のきっかけ。
中央、初来日のイラストレーター、セルジュ,ブロック氏。まずは日本のあたたかな反響に驚きと喜びを。大小が同時に内包された巨大な都市と東京を表現。小山氏には、直筆原稿のそのひと文字にエレガントなアート性を感じたと語る。
日仏交流のモデルとして文化庁へ表敬訪問を。仏文化に造詣の深い長官(中央)は、対して「繊細な日本文化を受け止めてくれる幅広さと奥深さを尊敬します」と語り、イラストへは「シンプルな手法で温もりや深みを感じる」と賞賛した。

私は、あと何時間あなたのことを好きでいられるのだろう。
私の願いは、あと何回祈ることができるのだろう。

人生のごく平凡な出来事を一生分の数字であらわした物語は、どこにでもいるあなたそっくりな女の子が主人公。日々の小さなこと、例えばまばたき、呼吸、流れる血液、心の中でおきること……。嬉しさ、悲しみ、喜び、苦しみ、陰も陽も……。この世に存在する全てのものの数字を知ることで、それが有限であることを思い出さずにはいられない。

母親のおっぱいの量、誕生日のろうそくを消す本数、キスをしている時間、ブラジャーをはずす愛しい人の数……。成長と共に淡々と数えられる数字は次第に不思議な力を持ち、生きることが限界のあるという現実を月灯りのように優しく照らしてくれている。いつかは消えてなくなるものであり、どんなに大金をはたいても、どんな権力を用いても、どんなに愛していると叫んでも、この世界の姿を一瞬たりとも留めることはできない。それはまるで川の流れをせき止めようとするが如くかなわぬこと。自分の力で、自分のものにできないことに愕然とする。この瞬間しかないと知れば、ごく当たり前だったはずのことが、あらためて愛しくなるのだ。

読み終えたとき、目の前に珈琲の湯気がゆらゆらと立ち上っていた。しばらく無言で眺めていた。ただ、そうしたかったから。そして、至極幸せだった。有限だと気付くことは、世界の後ろにあまねく広がる愛(無限)に、気付くことかもしれない。通勤時一歩踏み出す足、ブーツに足を通すこと、メールを打つ指の感触、クルマのキーをまわすこと、普通に流れていた日常の小さな事が、まるで木の葉の後ろに潜む小虫を愛でるように、大切に思えてきそうだ。

この『いのちのかぞえかた』の魅力は、やはりその文章にある。勿論、エスプリの効いたイラストが巧妙なエッセンスとなっているし、両者を受け止めた編集者の柔らかな人柄も知れば素晴らしさが増す。ただ、全編通して流れる、言葉の奥から醸される純粋な何か……。流して読んでいても感じられるもので、この世にたったひとつこの著者だけが持つ光(それは誰もがきっとそれぞれに持つもの)が終始放たれ、読む者をじんわりと包み、感動の導き手となっているように思われた。琴線に触れるように。それもかけがえのない、いのちのひとつと言えよう。

小さな出版社からこの世にそっと送り出された『いのちのかぞえかた』は、読むごとに新鮮な喜びをもたらしてくれる絵本だ。日々持ち歩けるサイズも嬉しく、今日とは違う明日の私へもまた、読ませてあげたい。形が儚いものと知ったからこそ、形で現そう。大切なあの人へもプレゼントしたい、そんな絵本なのだ。

近くにあるだけで心和む絵本「いのちのかぞえかた」。手から手へ渡されるプレゼントブックは本(紙媒体)ならの魅力。後ろは小山薫堂訳、直筆で綴られた「まってる」。各国で翻訳され同時発売。特に日本での売れ行きが好調となる。

千倉書房プレゼントブック新刊『いのちのかぞえかた』 好評発売中。

公式ツイッター

 
ほか同シリーズ本、『まってる』『キスしたいていってみて』なども。

『いのちのかぞえかた』出版記念クリスマスイベントを開催予定。

物語に登場する誕生日に吹き消すろうそくの一生分の数——3741本に火を灯す瞬間を共有できるロマンティックなキャンドルナイト。是非おでかけを!
ゲスト:辛島美登里 司会:千倉真理。
日時:12月22日(水)20:00〜22:00(雨天の場合翌日へ延期/その場合辛島美登里さんの出演はございません)
場所:ジョイナス屋上 ジョイナスの森彫刻公園
ホームページ:http://www.sotetsu-joinus.com/event/20101222/