土屋孝元のお洒落奇譚。忘れられた紳士用品
サスペンダー。

(2013.03.28)

本物のサスペンダーは
ボタンで留める。

最近、ほとんど忘れられた存在の紳士用品があります。僕も十何年ぶりにクローゼットより出して見たのですが、
これを付けるスーツもなくて、昔のスーツを直して着たりしています。この忘れられた紳士用品とは「サスペンダー」もうほとんど見かけませんね、たまに見かけるのは、ある、刑事ドラマで主人公の警視が紅茶を飲みながらのシーンや映画の世界の中でだけになってしまいました。

本物のサスペンダーには、サスペンダーには本物も偽物もないのですが、僕が偽物と呼ぶのは子供の頃に使っていた金具で留めるタイプのものでどのパンツにも付けられます。本物のサスペンダーにはスーツのパンツ側にそれ用の用意が必要なのですね、サスペンダーはボタンで留めるので、そのためのボタンが必要になるわけです。

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基本、サスペンダーに合わせてボタンの位置も調整し、自分の好みもあるでしょうから、それも考慮しボタンを付けておきます。パンツの仕様により長さも変わります、例えば裾がダブルでツータックパンツの場合、好みにもよりますが一般的には軽くワンクッションくらいのの長さです。これに合うサスペンダーの長さということになります。

ノータックパンツにはサスペンダーもどうかと思うので、(例外はタキシードスタイルの場合ですが、)このダブルの裾の仕上げがサスペンダーの長さに影響します。

サスペンダーには長さを調整するためのバックル?金具が付いていて、この金具の位置でパンツの丈を調整し、自分でもこの金具の位置を調節します。

少しわかりにくいので、スーツのジャケットを脱いだ時に、どこらあたりにこの金具をもってくるかが重要な要素です。
あまりにも肩の上のほうにあってもおかしいですし、逆に下すぎてもおかしいものです。

自分に合う位置で肩にも食い込まない、自然な位置、この金具が鎖骨にあたる位置にくるとかなりの痛みをともないます。
何本かのサスペンダーを購入してみましたが、自分にぴったりのサイズはなかなか難しいものです。

ネクタイ、シャツの色との
バランス、コーディネイト。

このサスペンダーにもデザインがいろいろとあり、吊るす部分のベルトリボンにストライプ柄とか、ドット柄とか、緋色の赤のビロード生地とか、パンツに留める部分は白い革製とか、僕の持っている中でも凝ったものでは、ルーカス・クラナッハのアダムとイブを織り込んだゴブラン織風リボン生地のものや黒に金糸で刺繍されたドラゴンやボートレースシーンを描いたものとかです、こういう凝ったものはイギリス製の物が多いですね。

ある時期、この「サスペンダー」にも傾倒していろいろと集めてしまいましたが、
今、使うなら、紺と白のストライプ柄に留め部分が白い革製のものか、緋色の赤ビロードで留め部分が白い革製のものくらいでしょうか。

ネクタイの色とのコーディネートも考えて合わせているのに、ジャケットは脱がないのが紳士というものでしょうか、シャツの色とのバランスもコーディネートに入ります。


サスペンダー11種。ポール・スチュワート、ラルフローレン、コールハーン、グルカなど。

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ある時期自分で言うのもなんですが、気に入っていたコーディネートは、黒に近いチャコールグレーの六つ釦二つ掛けのダブルのピーク襟スーツに、シャツは金赤のストライプ柄、0.3mmくらいのストライプです。なかなかありそうでないのですが、これに黒に近いマルーンの地色にピンクの水玉ネクタイ、これと先ほどのルーカス・クラナッハのアダムとイブ柄サスペンダーを合わせていました。

微妙な赤系のバランスです、色と柄の組み合わせ、マフラーはカシミヤの金赤または、ジム・トンプソンのタイシルク紅色のスカーフです。どこか一箇所でもバランスが狂うとおかしなことになるギリギリの調和とでも言いますか。

ある時、もう だいぶ前のことになりますが、こんなスタイルで撮影スタジオへ行ったら、大御所スタイリストのKさんに「あんたカブイてるね〜!」と言われたのを覚えています。


チャコールグレースーツの裏地はこんなでした。

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ここでかぶき者の簡単な説明を、その昔、戦国時代から江戸時代初期にかけて、かぶき者と呼ばれた男達がいて、派手な衣装や朱鞘の刀などのいでたちで徒党を組んで町に繰り出していたようです。歌や茶の湯を好むものを数寄者と呼び、それよりも数寄に傾いたものをかぶき者とも呼ぶようです。いま、歴女女性に人気があるのは、前田慶次でしょうか、彼は歌会で和歌を読み、お茶をし、派手ないでたちで京の町に出没したとも言われています、京で直江兼続らと懇意となり、後に上杉景勝に士官し、米沢まで同行したようです。

この頃、出雲阿国がこのかぶき者の踊りを真似て始めたのが歌舞伎のはじまりとも言われています。
サスペンダーに戻り、春なので、たまにはサスペンダー・スタイルで出かけてみようかな、と、思うこの頃です。

チャコールグレースーツ、6つ釦2つ掛けのピーク襟のスーツ、裏地は写真の通り緋色と金赤の中間くらいの赤です。シャツはアスコットチャン製の金赤ストライプ。ネクタイはマルーン地色にピンク水玉、チーフは黒字に金赤の細かいドット柄でした。これをみて、スタイリストKさん曰く「あんたかぶいてるね~。」の一言でした。