和洋折衷、取り合わせの妙
『NEW利休BAG』
(2013.01.01)
ファッション・デザイナー、横森美奈子さんによる『NEW利休BAG』。和洋折衷、古今東西の妙趣あふれる布地を横森さん独自のセンスで取り合わせ、京都の職人さんたちが至高の技術で仕上げる1点もののバッグです。そのユニークな発想はいずこから? 横森さんにお話をうかがいました。
■横森 美奈子 プロフィール
(よこもり・みなこ)ファッション・デザイナー。1949年東京生まれ。桑沢デザイン研究所グラフィックデザイン科卒業後、ハンドニットから服のデザインを始め ’72年(株)BIGI入社。レディスブランド『MELROSE(メルローズ)』、『HALF MOON(ハーフムーン)』、メンズブランド『BARBICHE(バルビッシュ)』のチーフデザイナーを歴任、’99年よりフリーランス。NHK『おしゃれ工房』出演などテレビや雑誌、本の執筆など多岐に渡る活動を始める。’02年~(株)WORLDの大人の女性のためのブランド『smart pink(スマート・ピンク)』を立ちあげ、トータル・ディレクターを務める。’07年より(株)ナガイレーベンの介護ユニフォーム『CARE CREW(ケアクルー)』を手がける。また同年より和装小物の利休バッグを新たな解釈でデザイン、洋装にも似合う『NEW利休BAG』を発表し続けている。著書に『ヨコモリミナコの図解着やせマジック! あっという間に服でやせる!』(小学館刊)、『私の介護days – 仕事もおしゃれも。』(小学館刊)がある。『横森美奈子のNEW利休BAG展 』は「vol.10 FLOWER POWER」に続いて鹿児島展、長野展が予定されている。
NEW 利休バッグオンラインショップ http://www.oriental-hiroshima.com/onlineshop/artist/yokomori.html
横森美奈子ブログ http://minx-channel.com/
和装伝統工芸 利休バッグを新生する
『NEW利休BAG』
Q:『NEW利休BAG』は、インポートのブランドのスカーフや、ファブリックと日本の着物の布地の斬新な組み合わせで作られたたいへんユニークなバッグですが、元は和装伝統工芸である利休バッグをこのように作るようになったのはなぜですか?
横森さん(以下横森):和装バッグとして使われている利休バッグは袋帯に使用されるような高級な布地で作られるものです。お茶会に出席する時などに持っていると中を開くことなしに懐紙や袱紗を、すぐに取り出せる機能的にも優れたバッグ。形はよいけど、どうしてフォーマルなものしかないの? とつねづね思っていました。
ある時、私自身、着物を着るようになり和装に興味が出始めた頃、尊敬する大先輩で日本を代表するインテリア・デザイナーの内田繁氏から「アーティストではなくデザイナーの作品を発表するギャラリーをオープンさせようと思っている。君も何か作品を作るように。」と言われました。さんざん考えた末、利休バッグ! ということで、いろいろ布地を探し始めました。
そこで、結構持っていたエルメスのスカーフなど見返していたら、やっぱりデザインが素晴らしい。ここに焦点を当てて、利休バッグを作ったら面白いものができるんじゃないかと思ったのです。
それから古今東西の布地をセレクトして、京都の一流の職人さんに作ってもらい『NEW利休BAG』ができました。
最新コレクション
「Flower Power」から
Q:なるほど。No.104のバッグはエルメスのスカーフに、アンティークの友禅を合わせてますね、独特の和洋折衷スタイルですね。
横森:このバッグのタイトルをみてください。”Les Voitures Classique“はフランス語で「古典的な車」という意味。エルメスのスカーフに描かれた「クラッシックカー」と、友禅に描かれた平安時代の「牛車」との時空を越えた取り合わせです。明るく突きぬけるようなミント色のリンクが、両者の時空を超えて結びつけているような……。
Q:バッグにはそれぞれタイトルがついているんですね。
横森:『NEW利休BAG』は、通し番号では約200ほど作ってきましたが同じ布地を使っていても、合わせる布地がちがうので、ふたつと同じものがありません。完全な手作り、1点ものです。それぞれに思い入れが深く、全部にオリジナルなタイトルをつけています。ストーリーがあって、楽しめるものになっています。
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Q:2007年から展覧会形式で『NEW利休BAG』を発表されはじめて、今回の最新コレクション「Flower Power」で10回目ということですが、今回は花がモチーフのバッグが中心なのですね。
横森:最近作るものになぜか花モチーフのものが多いのと、こういう時代だからこそ、素直に美しいものを大切にしていきたいなと。花を見て気持ちが荒ぶる人はいないでしょう。「Flower Power」は70年代に起った反戦ムーブメントでしたが、今はもっとナチュラルに「Flower Power」を言えるのではないでしょうか。
表現したい
「取り合わせの妙」
Q:『NEW利休BAG』の作り方というのは、どのようなものなのでしょうか?
横森:和洋問わず面白い生地を見つけてはコレクションしておきます。生地の取り合わせ、マッチングがこう、バシッと来ないとイヤなんですね。取り合わせが決まったら、キッチリとサイズにトリミングして、マーキングして職人さんに渡せるようにします。「これに、これを合わせてね。」と。京都は分業のものづくりで、持ち手を作る人、裏に芯を張る人など、それぞれ担当の職人さんはちがうので、職人さんをまとめている方に、段取りがよいように素材を渡します。
着物の布地というのはけっこう丈夫なものですが、ブランドもののスカーフというのはとってもデリケート。これらをひとつのバッグにするのはまさに至難の職人技です。
『NEW利休BAG』は伝統工芸品ですが、布のみでこれだけのしっかりしたバッグの形を作るのは、簡単なことではないのです。
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Q:職人さんもびっくりの布の組みわせだと思うのですが、そのインスピレーションの源というのはどのようなものでしょうか?
横森:ええ、何軒も断られました。日本古来の言葉に「取り合わせの妙」という言葉がありますが、それをこのバッグで表現したいと思ったのです。今でいうと、ミックス・テイストな感じでしょうか。
私はよく着物を着ますが、着物は派手な色のものが好きです。年齢的にどうかな? と思っていた矢先、まわりから「派手だ!」と言われてしまって、悔しいのでいろいろ調べました。そうしたら見つけたのです、日本の安土・桃山時代というのは、老若男女問わず流行色は赤やピンクで、色柄が大らかに溢れた時代であったというデータ。
桃山時代は、織田信長のように海外からのインポートもの「南蛮もの」が大好きな時代。「あ、私が刺激を受けるのは江戸のわびさびではなく、安土・桃山だ!」と思いました。
昔から、日本人の海外文化の取り入れ方はたいへん興味深く、ただ外国のものをありがたがっているものではなく、自分たちで独自の消化をしています。特に安土・桃山時代のミックス感覚、あの感覚です。例えば男性がフリルの付け襟をしていたり、着物の上に別珍のベストを着ちゃったり。豊臣秀吉が、ペルシャじゅうたんで陣羽織のようなものを作って着ちゃったり、……斬新としかいいようがない。日本人はわび・さびとはまた違った高度なミックス感覚を持ちあわせていたし、私はそっちの方、なにか目新しいものを取り入れていた時代の方が断然好きです。
遊べる小物の魅力いっぱい
『NEW利休BAG』。
Q:横森さんはファッション・デザイナー、ディレクターとして活躍されていますが、これまでのお仕事と『NEW利休BAG』の活動の接点というのは?
横森:もともとものを作るのは好きでしたが、実はファッション・デザイナーになろうとしてなったわけでなないのです(笑)。私は’49年生まれですが、当時は今のようにカワイイ服が簡単に手に入る時代ではありません。おしゃれ好きで、洋服が欲しいとすると自分で作るしかなかった。母のミシンで、見よう見まねで、ああでもない、こうでもない、と作っていました。中学くらいから、着たい一心で。
学校ではグラフィック・デザインを勉強していましたが、実際に洋服を作っていたことが役立ちファッションの道に。それから40年、ファッションの業界では、いい意味の「リアルクローズ」を作っているという、当初から全くぶれていないスタンスに評価はあると思います。
『NEW利休BAG』をやってて面白いのは、バッグはファッションに変化をつけることができます。バッグなどの小物の方が大胆になれますよね。やっててとても楽しいんですが、辛いこともあります……「こっちの生地を使いたい、でもそっちの生地も使いたい、でも、これとそれは合わなーい!」というように、妥協ができないのが悩みで辛いのですが……(笑)。
妥協ナシ!
面白いものしか作らない。
『NEW利休BAG』は、仕事というより趣味だと思ってやっているので、本当に自分が面白いと思えるものしか作りません。妥協はいっさいありません。
展覧会で、作品の大半は売れてしまうのですが、売れて嬉しいような嬉しくないような……。思い入れがあるので、人手に渡るのが悲しいような……(笑)。でも、顔が見える方に買っていただけると嬉しいですね。見知らぬ誰かが買っていったのではなく、◯さんの友達の△さん、知っている人だと安心したり(笑)。