かわいいものだけ持っていたい。
DOUBLE MAISONに住む女の子。

(2012.07.23)

先日、青山の一角に夢のおうちが4日間だけ登場しました。おうちの名前は『ドゥーブルメゾン』。大森伃佑子さんがつくるかわいいものが大好きな女の子の世界です。ここに住む6人の女の子は、お気に入りの着物やワンピース、帽子やアクセサリーなど好きなものだけをぎゅっと詰め込んだクローゼットを持っています。そう、洋服と着物が同じ世界感を持って並んでいるのです。

いままで見たことのないようなお洋服感覚の着物や和装小物、ブローチにも使える帯留めやカラフルな足袋、その着物と並んで一緒に展示されている洋服、帽子、キャンドル、お菓子……。この夢のおうちを作り出した大森伃佑子さんにお話をうかがいました。

ぞうりとおそろいの太いブルーのストライプのワンピース
会場内でちくちくと縫い物をしていた大森さんの指定席はこちら

着物がどんどん好きになって。

「ずいぶん前になりますが、アンティーク着物の雑誌のお仕事をする機会があり、撮影用に着物をコーディネートすることになったんです。それが初めての着物を扱う仕事です。わたし自身、試行錯誤しながら進めるうちに着物は面白いなと思い始め、いろいろと学びました。ビジュアルをつくるためにスタイリングするというそれまでの雑誌でのお洋服の仕事と同じ方法で、着物にアプローチしていきました。

着物はもともと美しいものですから、ビジュアルづくりをすればするほどさらに美しいものができて、自分自身のなかで大きな充実感を得られるようになったんですね。洋服だとトレンドをきちっと意識して、流行をきちっと取り入れなきゃいけないという意識が大きいんですが、着物は『わぁ、かわいい』だけで世界を作れるというところがとても魅力的で、つくっていてとても楽しかったんです」と大森さん。『KIMONO姫』が着物と出会うきっかけだったようです。

「わたしには決めていることがあるんです。”少女のころのスタイル”、生涯ここだけの部分の仕事をしたいということ。もちろん今はリアルタイムじゃないけど、今だからこそ見えてくるいろんなこともあります。ファッションのことだけでなく、女の子の生きる道というのかしら……。おねえさんだから言ってこう、と思って」と笑う。

数年前にふたたび、着物の仕事がやってきました。それは寝ているときも着物をきているというキャラクターを蒼井優が演じたテレビドラマ『おせん』のスタイリング。アンティークの着物をたくさん扱うことになったのですが、流行ものとしてのアンティーク着物を扱うことには慎重だったという大森さん。一過性のブームにならないよういろいろと配慮していたこともあったようです。

素材はもちろんコーディネートの提案がすてき
ありそうでなかった、チェック&ストライプのぞうり
『ドゥーブルメゾン』を始めるきっかけ。

「ちょうど同じころ、ある女優さんから海外に行くときにオリジナルの着物をつくってほしいと頼まれたんです。一から着物づくりをしているととっても楽しかったんです。そのとき呉服業界の独特の世界に触れてちょっと驚いたりもしました。わたしがつくってきた世界観を着物の世界で表現することで、もしかすると一石を投じることができるかしらと感じて、着物をつくってみようかな?と思ったの」。

着物づくりを応援してくれる友人を通じて「やまと」の会長さんと知り合うことになりました。するとちょうどやまとでも「なにか新しいことをしよう」と模索していたところで、大森さんと出会いが素晴らしいスパークを引き起こすことに。

「女の子の気持ちって数字じゃ読み取れない隙間だったり、深いところに訴えかけることが大事」と、雑誌づくりではごく普通に考えられていることをまず説明するところから始まりました。

「村のはずれの小さなところでゆるゆると、かわいいねと言ってもらえるショップをつくることもできたと思うんだけど、わたしに求められているものは、もっと大きな影響力を持って内側や核心に触れるながら、壊すなり進めるなりという方向かなと感じたんです。「やまと」がバックについてくれて、大きな力で新しいことを始める方が、より面白いことができると思ったの」。

『ドゥーブルメゾン』の構想がスタートしたのは2010年の秋、1年をかけて昨年の秋ウェブ上だけに誕生しました。着物の世界の大きな会社とオリーブ育ちの大森さん、「お互いの呼吸が合うまでに1年くらいかかったの。同じ言葉を使っても違うことを言い表していたりしてなかなかスムーズにはいかなくて。今もスムーズではないかも知れないけど、お互いを理解できるようになってきたの」と笑う。

イヤリングと帯留め、アンティパストの足袋などかわいいものがいっぱい
『ドゥーブルメゾン』でつくりたかった世界。

「いちばん最初にやりたかったのはいろんなことを超えるということ。時代も、場所も、国境も、年齢も、すべての垣根を越えること。着物も洋服も一緒でいいじゃない。いま美しいものは100年後も美しいと思うんです。だからいまつくるものを100年後もかわいいと思ってほしい。

かわいくないものがクローゼットに入っているだけでサがるでしょ。今日明日使うものじゃないけれど、『本当にかわいいものだけをクローゼットに入れたい』というのはすべての女性の願いだと思います。だから人からは見えない腰紐や帯枕、着物や足袋のパッケージなど細かいところまで、気持ちが豊かになるようなデザインになるよう見直しましょうとお話しました。

アバンギャルドにならないよう気をつけながら、かわいく見えることを提案しています。単純にまっすぐなカタチや洋服の素材の半襟がかわいいなど、洋服でもあることですけれど、“かわいいつけ襟をしたいために洋服を選ぶ”みたいなそういう感覚で着物選びをしてもいいのかなと思いました。

またチェックだったり、リネンだったり、お洋服の生地を使って着物をつくったらどうだろう。レース好きの女の子も多いから、レースの着物はどうかしら、という風に少しずつ考えていきました。『ドゥーブルメゾン』に住む女の子たち6人のキャラクターを通して、かわいいにもいろんなかわいいがあるんだとわかってもらえるとうれしいです。

これからお部屋の住人が増えていくかも知れないし、クローゼットの中味がどんどん増えていくかも知れない。それを楽しみにしてほしいなと思います。

いまはウェブサイトが中心ですけれど、いつかはちゃんとショップをと思っています。実際に触ってもらって、着てもらってということが大切。今回会場に来ていただいた女の子たちはみんな、目がきらきらしていて、きゃあきゃあ言いながら写真を撮ってくれてたの。そういう景色も含めて『ドゥーブルメゾン』なんだって思っています。

今後はきちんとした着物もつくっていきたいと思っています。あとは、着つけを楽しく習うところとか、着物で出かける場所、お茶会なども催していろいろと広がるといいなと思います。

*現在「きものやまと」2店舗で一部商品のお取り扱いあり

洋装も和装もレース遣いが魅力的なものばかり
『幸せのパン』で原田知世さんが着ていたワンピース
仲間たちのサポートで広がる世界。

『ドゥーブルメゾン』のアートディレクターは菊地敦己さん。大森伃佑子さんの一番の理解者でもある菊地さんが、ウェブサイト、デザイン関係の制作はもちろんブランドコンセプトづくりに至るまですべてをサポート。今回、ゆかたのデザインも手がけています。

菊地さんだけでなく、いままで大森さんとつながっていたお友だちがたくさんサポートしています。たとえば、イラストを描いているのは塩川いづみさん、帽子の制作はSugriさん、足袋をつくっているのはアンティパストさん、パールのアクセサリーはプティローブノアーさん、そのほか文章を書く人も広報を担当する人もみんな大森さんのファミリーのような仲間たち。

「わたしはかわいいものが好きな人は、全国どこでも、世界中つながれると思っているの」と目を輝かせる大森さん。『ドゥーブルメゾン』の考え方と同じように、時代も、場所も、国境も、年齢も超えて。

帽子の制作Sugri
菊地敦己さんのデザインしたゆかた
岡尾美代子さんが会場内をスタイリング
塩川いづみさんのイラストによる、6人の女の子のバッグ

DOUBLE MAISONドゥーブルメゾン
http://www.doublemaison.com/