ソワレ 新生ソワレのライブシリーズ、
“Soirée aux Tricolores” スタート。

(2012.06.08)

来る6月12日、 歌手、作曲家として、
またライブハウス『サラヴァ東京』のプロデューサーとして
活躍して来たソワレくんが、新生。
これまでのネオ・シャンソン歌手としての活動とは一線を画したライブを行います。
コンセプチャル・ライブ・シリーズ『トリコロールのソワレ(Soirée aux Tricolores)』の第1弾
「トリコロールのソワレ:白(Chante la Bossa Nova en blanc)
越路吹雪とボサノヴァと」について、
そしてソワレくんの音楽活動の原点についてお話をうかがいました。

■ソワレ プロフィール

歌手、音楽家、プロデューサー。6月12日生まれのふたご座。幼少からピアノ、ソルフェージュを学び音楽に親しむ。シャンソニエではなく、ライブハウス、ストリートを中心に歌い、従来のシャンソン歌手とは一線を画す「ネオ・シャンソン歌手」としての活動をスタート。4オクターブの脅威の音域の広さ、ジェンダーを凌駕する楽曲とパフォーマンス、情熱的な唱法は「絶叫のシャンソン」と話題を呼ぶ。歌手、音楽家、としての他に『青い部屋』『サラヴァ東京』でプロデューサーとしても活躍。優秀なミュージシャンをいち早く発掘、発表の場を提供。音楽通の観客からも高い評価を得るイベントを繰り出し続け、絶大な動員力を誇る。シャンソン史、日本のポップス史、特に1970年代以前のシャンソン、80年代アイドル歌謡曲に造詣が深く、越路吹雪、河合奈保子の専門家としても知られている。監修アルバムも多数発売。現在、歌手として共演してみたいアーティストは布施明。

ソワレホームページ

いわゆるボワノヴァのスタンダード・ナンバーではない
『越路吹雪とボサノヴァと』

ー今回のライブ「トリコロールのソワレ:白(Chante la Bossa Nova en blanc)越路吹雪とボサノヴァと」について教えてください。

これまで「シャンソン」を歌ってきました。今回からソワレの新展開です。『トリコロールのソワレ(Soirée aux Tricolores)』と題して、6月の「トリコロールのソワレ:白(Chante la Bossa Nova en blanc)」ではボサノヴァ、9月「トリコロールのソワレ:青(Chante le Jazz en bleu)」ではジャズ、12月「トリコロールのソワレ:赤(Chante la chanson lyrique japonaise en rouge)」では叙情歌謡と、毎回異なるテーマを設けて、今までにはなかったアプローチで歌をお届けしたいと考えています。

僕自身の性格、キャラクターは弾けてるんですが、歌手としての僕は、意外や没個性。譜面通りに上手く歌える人で終わってしまっている。「ボサノヴァ」でも「ジャズ」でも「叙情歌謡」でも、自分で言ってしまいますが、それなりに上手く歌えると思うんです。でも、そこで「まあ、きれいに歌えましたね。」で終わることにはしたくないんです。僕は、スタイルよりもアイディンティを重視するタイプなので、ボサノヴァならボサノヴァを自分らしく咀嚼したものでやっていきたいと考えています。

第1部は、越路吹雪さんが歌っていたシャンソンをボサノヴァ・アレンジしたもの中心ですが、バンド・メンバーそれぞれに数曲ずつアレンジをお願いしています。ちなみに今回のバンド・メンバーは、元サケロックのベーシスト田中馨くんはじめ僕より若いみなさんです。第2部は僕のバースディ・ライブということで、ぶっ飛ばしていきます。


新生・ソワレのコンセプチャル・ライブ・シリーズ『トリコロールのソワレ(Soirée aux Tricolores)』、ポスターより。Produce:櫻田宗久  Design:真舘嘉浩(WATERS/ORGASMO) Photograph: 小宮山 裕介 (mobiile,inc.) Costume:サトウハナコ Thanks:T2k、わだりか、Naguissa、潮田あつこバルー

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ーいわゆるボワノヴァのスタンダード・ナンバーではなく、越路吹雪さんナンバー のボサノヴァ だというところがユニークですね。ちょうどこの6月末に、ソワレくん選曲の越路吹雪さんの CD も発売になりますね。今回はボサノヴァ、秋にジャズ、冬に抒情歌謡と、3回の公演のテーマが決まっているのは面白いですね。

これまでのソワレとは違うことを3回のシリーズでやってみようというのは、プロデューサーの櫻田宗久さんからの提案です。いつもやらない、慣れないことをやろうということなので、やりやすくはありません。でも、大変だけれどぜひやりたい。自分にとって過渡期があるというならば、今、僕はまさに過渡期。いつも過渡期かもしれませんが。

ジャズやボサノヴァは実はあまり好きではないです。困った時のジャズ頼みというか、ジャスやボサノヴァ・アレンジにしておけば、とりあえずおしゃれ、というイメージです。ボーカルが入っていても英語や外国語なので BGM のように流して聞けてしまう。「個性がなければ音楽ではない」と考える僕にしてみれば、面白くないです。

かつて、越路吹雪さんがジャズを歌う時、越路さんがジャズに近づくのではなく、ジャズを越路さんのフィルターを通してやる、という感じだったので、僕もそうやりたい。ソワレのフィルターを通したボサノヴァ、ジャズ、日本の抒情歌謡をやっていきたいです。

越路吹雪『コロムビア イヤーズ』

2012年6月27日発売、越路吹雪『コロムビア イヤーズ』COCP-37372〜3(2枚組)3,800円。EMI、キング、コロムビア、ビクター、テイチクの5社から発売の日本人によるシャンソン大アンソロジー”ラ・シャンソン・オ・ジャポン”シリーズ、越路吹雪コロムビアレコード編。同時発売でEMI編も。ソワレくんは選曲・ライナーノーツを手がけている。
音に囲まれて育ち
歌の歌詞には批判的な子供時代。
ーソワレくんは歌手の越路吹雪さん、それから80年代のアイドル、河合奈保子さんを敬愛されており、データに精通しておられ、それぞれのベストアルバムのライナーも書いているほどです。それほどにまで好きなおふたりの音楽との出会いが、音楽の道へのきっかけなのでしょうか。それとも、その前から音楽が大好きな子供だったのでしょうか? 

父が音楽系の仕事をしていたので、子供の頃からまわりに音楽が溢れていました。家庭用ビデオデッキが普及する前から家にはベータビデオがあって、ラジオをカセットデッキにつないでテレビ番組『レッツゴー・ヤング』を FM録音したりしていました。ドラムセット、グランドピアノ、ウッドベース、アルトサックス、ギター……楽器もほとんど一式揃っていました。3歳からピアノを習わされていましたが、先生がピアノで弾いた和音を言い当てるソルフェージュが得意でした。

テレビアニメ『魔女っ子メグちゃん』のテーマソングの歌詞「ふたつの胸のー、ふ・く・ら・み・は」というところを「きわどいなぁ」と思いながら一緒に歌ったり、グレン・ミラーで知られている『茶色の小瓶』の子供用対訳「ディンドンディン喉うるおし、歌もはずみます」という歌詞を「て、に、を、は、が なってないなぁ」と、すごく嫌なものに感じていたり。合唱曲『大地讃頌』(作詞:大木惇夫 作曲:佐藤眞)の「土に感謝せよ」という歌詞に、なんで歌に命令されなきゃいけないんだ! と憤りを感じたり……今、考えると、子供のわりには歌の歌詞に敏感で、すごく批判的だったかもしれません。

当時から僕は、男子にしては声が高くて、合唱コンクールでは男子と女子の端境というのが僕の立ち位置。女声パートを歌わされてました。歌うと自然に声にビブラートがかかってしまうので、よく先生に注意されてました。

反逆の象徴としての
河合奈保子。
ー自分から音楽を始めたきっかけというのは?

音楽番組『夜のヒットスタジオ』で見た河合奈保子さん、青い衣装で『ムーンライト・キッス』を歌い踊る姿に一発でやられてしまい、熱狂的なファンになってしました。

でも、奈保子さんは父の勤めていたレコード会社とは違う会社の所属でした。僕は子供ながらに親に対して非常な配慮をする子供だったので、父に奈保子さんのレコードを買ってとは、言えませんでした。

やさしかったおばあちゃんにもらったお小遣いで買ったレコードを、隠れるようにして聞いて歌や踊りを真似してました。

要領がよくて、学校の成績は抜群な子供だったのですが、母は勉強のできる僕以外はまったく受け入れてくれなかったので、音楽が好きだなんて、ましてや父の会社のライバルのアイドルが好きとは言えませんでした。僕にとって、河合奈保子さんのファンであることは、両親に対するちょっとした反逆だったのかもしれません。

そんな奈保子さんの追っかけライフを送っていた15歳のある朝突然、目が覚めたら譜面が書けるようになっていました。16歳で初めての曲を書きました。

ーどのような曲だったのでしょうか。

『弟コンプレックス』というポップスです。弟より背が低いお兄さんの歌で、自分の気持ちそのままでした。当時、僕は譜面を書くのが好きで、まるで日記を書くように、毎日 曲を書いていました。譜面を書くのってパズルみたいなもの。当てはめるのが好きだったみたいですね。

ー曲作りが好きな少年だったソワレくんが、本格的に音楽家になりたいという気持ちになったのは?

曲を書いていたので、自分の曲がどんなものであるのか、人の評価が知りたい。それが動機です。

越路吹雪から辿る
シャンソン、音楽史。

ー作曲を始めると同時に、歌にも目覚めて、歌い始めたのですか?

書いた曲は自分で歌っていましたけれど、それでどうしたい、というわけではなかったです。自分で歌いたいと思ったのは、TVの音楽番組『ミュージック・フェア』で越路吹雪さんを見た時からです。

河合奈保子さんが出演する音楽番組『ミュージック・フェア』を観ていたら、その時のテーマが越路吹雪さんだったのです。他界していた越路さんの曲を奈保子さん、和田アキ子さん、上月晃さんが歌う、という特集でした。生前の越路さんのステージの様子がビデオで流れたのですが、そのかっこよさに圧倒されてしまいました。放たれる輝き、スマートさ、歌の上手さ、存在感、立ち居振る舞い、中性的な魅力……こんなにカッコイイ日本人がいたのか、と。越路さんは1980年に胃がんで亡くなっており、その9年後のことです。越路さんのように歌いたくて、真似をしたのが、僕の歌いはじめです。

越路さんを追いかけて、レコード・アルバムを聞きまくりました。『越路吹雪1955-66年』という3枚組のアルバムが最高でした。気に入った曲はコピーして、その歌い手、作曲家のアルバムをたどって聴く。というようにしてどんどんシャンソンにハマっていきました。

エディット・ピアフもシャルル・トレネもベティ・マルスもダリダもリシャール・アントニーもみんな越路さんに教わったのです。

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ー歌に目覚めたのは越路さんによってですが、作曲においても、同じように影響を受けた人物、覚醒するきっかけとなった作曲家というのはいますか?

特に影響を受けた作曲家はないと思います。どんな作曲家にも必ずよい曲があると思うんです。逆に歌謡曲の大家の作曲家さんでもよくない曲もあるでしょう。

初めて曲作りの醍醐味を体感したのは、歌手としてデビューする前。レコード会社の作曲家オーディションに合格して、コーラスのアレンジの仕事などをしていた頃です。僕は声のレンジが広いので重宝されていました。

そこで、コーラスは声を重ねていくと面白い、果てがない、ということに気が付きました。例えばエリック・クラプトンや、大貫妙子さんなどの曲をきいていると、ものすごく行きついた先のシンプルさを感じるんですが、そういうのを自分で体感するのが楽しかったかも。「これ以上は音を重ねられない、どこからカットしていこう……ここか!」という。そういうのが面白かったですね。

ー曲作りで重視するのは、どのようなところでしょうか。

転調、ですね。例えば、五輪真弓さんの『煙草の煙』、大貫妙子さんの『愛は幻』『色彩都市』の転調は見事だと思います。転調が上手な人には憧れます。

曲作りのシチュエーションでいえば、曲や詩を書きたくても、いつでもどこでも書けるわけではありません。曲を作るための生活パターンを考えなければいけないところが難しいところです。

ソワレのこれまでのアルバム

オリジナルの和製シャンソンを作詞・作曲し歌い続けてきたソワレ。3rdアルバム『a la chanson』では、『帰り来ぬ青春 (Hier encore)』『ラストダンスは私に( Garde-moi la derni re danse
) 』シャンソンの名曲をアレンジ。都会的な音楽センスと圧倒的な歌唱力が魅力。
上段左・’02年、1st アルバム『シャンソンチックソワレ』(ヴィヴィッド ・B00008WD20)2,415円、右・’08年、2ndアルバム『さよならシャンソンこんにちは~Bonjour ma chanson』(SOI-001)2,800円、下段左’09年、3rdアルバム『a la chanson』(シブヤテレビジョン・B002BED316)2,200円。
自分がわかる言葉で、心を伝える、
歌の言霊を大切にする。
ー歌手としては、越路吹雪さんレスペクトであるソワレくんですが、どのような歌手でありたいと考えますか?

越路さんは、性別も、国籍もなにもかも跳び越えるような自由さと、ゴージャスさが魅力の方で、越路さんのようになりたい、というのが僕の原点ですが、ほかにも尊敬する歌手の方はたくさんいます。

島根のソングライター、浜田真理子さんは、素朴で研ぎ澄まされてるところがよくて、上手ということとは違うと思うのですが、すごく心に届く歌を歌う方です。大貫妙子さんは、凛として、孤高なところが好きです。

浜田さんや大貫さんは、越路さんと対極的な魅力を持つ方々です。その対極する魅力に惹かれる自分を反芻する時期に来ているのかな、とも思います。自分は果たしてどちら寄りの歌い手なのか。

ー歌を歌う時のキーワード、大切にしていることは何でしょう?

歌の言霊、かな。言葉を大切にして、自分がわかる言葉で、心を伝えることでしょうか。

海外の歌手の方も好きな人はいますが、僕はぼそぼそと口の中だけで唄うような人は好きではないみたい。小さい声でも、ちゃんと言霊が見える人が好きですね。

日本語はひとつひとつの言葉がはっきりしている言葉です。フランス語のように、J や Sh の子音が多い言葉ではないと思うんです。装飾音が少なくてパッキリパッキリしているというか。だからなおさらちゃんと発音を意識して歌いたい。

日本語だけじゃなくて、どの国の言葉もそうだと思うんですが、言葉には音程があります。たとえば「お茶」という言葉の音程は「お」が 「ド」で、「茶」が「ソ」です。そういう言葉が持つ音階に合わせて曲を書いて、歌います。もしも「お茶」の言葉の音程が「ソド」で、「お」の音が「茶」の音よりも高かったら気持ち悪いでしょう? 

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ー歌手のほか、作曲家、プロデューサーとして、いろいろな形で音楽に携わってるソワレくんですが、音楽の作り手として、最近気になっていることを教えてください。

カナダ・ケベック州のソングライターでイザベル・ブーレイ(Isabelle Boulay)という人がいて、その『ジュ・トゥ・ウブリレ(Je t’oublirai)』という曲。この曲のすごいところはほとんどド、レ、ミという3音だけでできているところ。音楽においてメロディというのはもうすでに出し尽くされたものといわれることが多いですが、こういう曲を聴いていると音楽には、まだまだ可能性があると感じます。

これまで、僕が作る曲は、平気で3オクターブにまたがっていたりして難しいとよく言われてて来ました。自分でも、曲作りにおいては、転調が上手だったりが勝負だと思っていたところがあります。歌においては音域が広いとか、ビブラートがかけられるとかで、複雑なメロディを歌いこなせると上手いといわれることが多いですが、そうじゃなくて、このようなシンプルな歌こそ人の心を打つのではと感じています。こういう歌こそ歌っていかなければ行けないのではないか、と。

この曲は、ピアノの北園優くんのアレンジで、6月12日のライブでもやろうと考えてます。ぜひ聞きに来て下さい。

ソワレライブ in SARAVAH東京
「トリコロールのソワレ:白
(Chante la Bossa Nova en blanc)
越路吹雪とボサノヴァと」 

日時:2012年6月12日 (火)
開場:19:00 開演:20:00
料金:前売り 4,000円、当日 4,500円(いずれも1ドリンク付)

出演:ソワレ 

ミュージシャン:北園優(ピアノ) 髙橋ピエール(ギター)、田中馨(ベース)、小春(アコーディオン)、長谷革ナオヤ(ドラム)